iPhoneが売れていない国——ギリシャ
少し前にWall Street Journal(WSJ)で「iPhoneの売上を支える通信キャリアの助成金」("iPhone Crutch of Subsidies")という題名の記事が掲載された(米国時間2月27日付け、註1)。
話の内容は、スマートフォン市場でのiPhoneのシェアと、携帯通信事業者の端末販売助成金(phone subsidy)の有無の相関性に焦点をあてたもの。ざっくりいうと、一般消費者の懐具合も厳しく、通信キャリアによる助成金も主流になっていないギリシャやポルトガルでは、値段の高いiPhoneに手を出せる人が限られるということ。この記事には、日本の場合と同様の「助成金のある米国や英国ではiPhoneのシェアが20%を超えているのに対し、助成金がないギリシャでは5%、ポルトガルでも9%に過ぎない」というIDCのデータを元にしたグラフが載っている(反対に、100〜200ドルといった低中価格帯の製品が増えてきているAndroid端末のシェアが米英と比べて高い)。
ちなみに、ポルトガルでは一番安いiPhoneの値段は680ドル(ボーダフォンが扱っている「iPhone 4」8GB版)であるのに対し、Android端末は106ドルから手に入り、サムスンの「Galaxy S II」も「iPhone 4」より安く売られている。いっぽう、ギリシャ最大手のコスモート(Cosmote)という通信キャリアでは、「iPhone 3GS」が535ドル。それに対し、昨年一番人気だった「Galaxy mini」という端末は188ドルだという。
「国が破産寸前のような状態でも、人は(もっと安いフィーチャーフォンではなく)スマートフォンを選ぶ」という事実に改めて驚きもし、「iPhoneはいまや食料、水の次に重要な存在になった(略)マズローの欲求段階説に従えば、セックスよりも重要な存在」と昨年3月に喝破していたアップルCEO(最高経営責任者)ティム・クック氏の慧眼が、ひとひねりした形で実証されたようにも感じる(註2)。
それはさておき。
このWSJ記事の主眼は、アップルのiPhoneビジネスと携帯通信事業者との呉越同舟ともいえそうな危ういバランスを示すこと——つまり前提に(主たる読者である米国人に馴染みの深い)米国内の事情——たとえば「スプリント・ネクステルが財務的に重い負担を背負ってまでiPhoneの取り扱いを始めざるを得なかった」などがあり、それを踏まえて「けれども、世界の大半の国で端末助成金を出すというやり方が主流になっている、というわけではない。
デンマークでは去年、複数の事業者が端末助成金を出すのをやめているし、またスペインのテレフォニカ(中南米が主たる市場で、ボーダフォンに次ぐ欧州第2位のキャリア)でも、1台あたり400ドル程度とされるiPhoneの助成金(キャリア各社にとっての初期持ち出し分)について、「あの水準の助成金を出し続けることには経営的に無理がある」とCEOが言っていることを伝え、補助金を出し続けられるだけの体力がある通信キャリアが減ってしまった場合は、アップルもいままで通りにはいかない、というような1つの可能性を示唆したものと思える。
註1:iPhoneの売上を支える通信キャリアの助成金
註2:クックCEOの慧眼
"Cook told the analyst ... that he felt the iPhone was just below food and water on Maslow's hierarchy of needs, a reference to Abraham Maslow's theory that people can't focus on higher-level needs (like love, self-esteem and self-actualization) until they have met the most basic ones (like food, sleep and, apparently, cellular telephony)."