海外ベストセラーを読む: 『10兆ドルのギャンブル』--アメリカの赤字処理の失敗と今使える投資戦略 - (page 6)

エグゼクティブブックサマリー

2012-05-19 12:00

財政赤字が株式に与える影響

 1995年から2000年までの間、株の投資家は20%の年間投資回収率を享受していました。しかし、21世紀最初の10年間の株価は、世界大恐慌以来の最低値を記録しました。経済の伸び悩みや金利の上昇、しのびよるインフレなど、間近に迫ったシナリオはすべて、未来の株式にとって不吉な前兆です。企業の収益は悪化し、企業の借り入れコストは増加し、インフレによって収入や株価は落ち込むでしょう。

 「長期的な下げ相場」が、財政赤字に苦しめられる未来を決定づける可能性があります。しかも、この株価がほぼ横ばいになる活気の無い時期は、場合によっては10年以上続くことが考えられます。

 投資家は、株式、特にアメリカ企業の株式の購入を減らすべきですが、ポートフォリオから完全に株式を排除する必要はありません。安値株や、国際企業、インフレに有利な産業、相関関係の無い投資戦略などを注意深く観察し、購入機会をうかがって下さい。

 長期的な下げ相場の場合、一時的に回復することはありますが、株式市場全体のトレンドは通常、下降気味です。投資に対するリスク選好度と求めるリターンを決めて下さい。先進工業国の企業の株を購入して下さい。購入するタイミングは、株価収益率(P/E)がその企業の年間純益の15倍を下回った時です。このような割安株を購入すれば、ほぼ間違いありません。ただし、ポートフォリオ全体の55%を超えて株に投資するべきではありません。また、株価収益率が20倍を超えたら、株の割合は約30%に抑えて下さい。

 ほとんどの投資家が「母国の先入観」に基づいて行動しています。彼らは、自分の国の企業が発行する株式に安心感を持ち、よって、その株を過剰に購入してしまう傾向にあります。しかし、アメリカで行われている株取引は、世界の株取引のわずか4分の1から3分の1程度であるため、持ち株のほとんどをアメリカ以外の国の株にするべきです。

 将来、特定の国際市場や新興成長市場が、その多様性と潜在的収益性の高さから、より魅力的な市場になると考えられます。その理由には、アメリカ市場よりも上手く2008年の金融危機を切り抜けたこと、そして、成長する見込みが高く、より多くの顧客層を抱えていることが挙げられます。例えば、オーストラリアとカナダは、信頼出来る銀行システムを持っており、GDPに対する負債の割合がアメリカよりも少なく、豊富な天然資源を持っています。

 インフレの時には、天然資源の価格は急騰します。また、韓国や南アフリカ、台湾やチリなどの新興成長市場は、国債の多さに抑制されることなく順調に成長する見込みがあります。

 多様性の高い外国市場からの恩恵を授かるもう一つの方法は、外国売上から収益のほとんどを得ているアメリカ企業に投資することです。アメリカの産業技術企業は、収益性の高い海外事業を抱えている傾向にあります。例えば、インテル社4は2009年には販売活動の80%を海外市場で行いました。ドル安の場合、アメリカの輸出企業は得をします。なぜなら、彼らの製品は国際市場では安値で販売されるからです。

 また、金利が上昇しても業績の良い分野の企業を探して下さい。エネルギーや医療、テクノロジー分野の企業は、銀行、公共事業、「消費者が任意で購入するもの」を扱った企業(例えば、レストランや小売業)よりも、インフレに耐えられる傾向にあります。また、ベテランの投資家は、アクティブ運用の調節可能な投資であるヘッジファンドなどの投資を選択することも考慮して下さい。

(ヘッジファンド:通常は私募によって機関投資家や富裕層等から私的に大規模な資金を集め、金融派生商品等(株、株価指数先物、債券、債券先物、商品先物、通貨など)を活用した様々な手法で運用するファンドのことを指す)

 安全に投資できると思える株を見つけられない場合は、マーケット・ボラティリティ(市場変動率)の取引が出来ることを覚えておきましょう。株価の乱高下は横ばい市場でも起こりえることです。そのため、「恐怖指数」として知られるVIX指数(ボラティリティ・インデックス)を使えば、ある一定の期間アメリカの株式市場がどれだけ上下するか見越すことで投資することができます。

(VIX指数:シカゴ・オプション取引所(CBOE)が、S&P500を対象とするオプション取引の変動率を元に算出、公表している指数。数値が高いほど投資家が相場の先行きに不透明感を持っているとされる)

 この取引はポートフォリオのほんの一部分に抑えるべきですが、準備をきちんと整えれば、面白い(そして利益になる)選択肢の1つになります。

 財政赤字は、市場の動きを鈍くするため企業の収益も落ち込み、株価を下落させるという結果に至ります。アメリカ国内の企業にそうした傾向がみられるのであれば、景気の良い国の企業の株を購入する事も考えられる為、信頼出来る金融システムを利用していくことは必須です。

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