感情で市場を読む
Thomson Reutersが、そのニュース分析サービスを拡張し、「市場心理インデックス(MarketPsych Indices)」の提供を開始した。これは、ニュースやソーシャルメディアに流れる情報から、楽観、悲観、喜び、恐怖、信頼、怒り、ストレスなどの感情を特定し、通常のマーケット情報では捉えることの出来ない市場の動きを予測しようというものだ。
今回のサービスは、インデックスの名称にもある、MarketPsychとともに開発されたものである。同社は行動ファイナンス理論に基づき、過去7年に渡って独自の分析ソフトウェアを活用して市場分析を行ってきた。MarketPsych社の分析対象は米国の7000社に限られているが、その結果は400を超える感情、傾向、トピックスなどの情報項目と共に届けられる。
なぜ今、行動ファイナンスか
通常の経済学においては、市場の参加者は必ず合理的な判断を行うことが前提とされている。一方、行動ファイナンスは人間の行動が必ずしも合理的ではないという前提に立つ。
つまり、人間の投資判断は、合理性を超えてリスク回避的であったり、あるいは、直近の印象や記憶によって大きく判断が左右される。こうした、非合理的判断が増幅されると、合理的な投資判断が有効ではなくなる。
行動ファイナンスは、2002年にDaniel Kahnemanが「プロスペクト理論」を提唱したころから注目されているが、Thomson Reutersがそのサービスに加えたということは、今まで以上に行動ファイナンスに基づく分析情報へのニーズが高まっているということだ。
恐らくその背景にはソーシャルメディアの普及によって、(1)投資家そのものの感情の起伏が伝播し易いこと、(2)社会や経済そのものがソーシャルメディアによって大きく影響を受ける事例が増えていることがあるだろう。アラブの民主化にしろ、ウォール街でのデモ行動にしろ、ソーシャルメディア抜きにはマクロ的な動きすら読み誤ってしまう現実がある。
MarketPsychのウェブサイトでは、株価と感情インデックスを参照することが出来る。例えば、「恐怖(Fear)」インデックスは、明確に株価と真逆の動きを示す。
一方、「怒り(Anger)」インデックスは、株価が戻っても「恐怖」ほどには沈静化しない。これが市場にどう影響を及ぼすのか、解釈はいろいろあるだろうが、株価が戻っても収まらない「怒り」が市場に存在していることは間違いが無さそうだ。
激情型マーケット
市場のグローバル化や取引の高速化なども市場変化を激しくする要因であるが、ソーシャルメディアによる投資家や社会そのものへの影響も、市場を激情型にする新たな要因となる。この感情の起伏の激しい、とても付き合いにくい市場と付き合うために、その変化を巧みにとらえるツールを使うというのは妙案である。
怒ってるのか、悲しんでるのか、機嫌がいいのか悪いのか、分からないより分かった方が付き合い易い。でも、日々の感情の起伏にびくびくしながら、一生懸命対処を考えるというのもしんどいものである。
できれば、日々の起伏は無視しても大丈夫なように、これだけ変化は激しくても大局的に捉えるツールが提供されると有難い。そんなのがあったら、普段の生活でも使いたいもんですね。
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飯田哲夫(Tetsuo Iida)
電通国際情報サービスにてビジネス企画を担当。1992年、東京大学文学部仏文科卒業後、不確かな世界を求めてIT業界へ。金融機関向けのITソリューションの開発・企画を担当。その後ロンドン勤務を経て、マンチェスター・ビジネス・スクールにて経営学修士(MBA)を取得。知る人ぞ知る現代美術の老舗、美学校にも在籍していた。報われることのない釣り師。