三国大洋のスクラップブック

ドン・キホーテ 孫正義を米国で待ち構える二つの巨大な風車 - (page 4)

三国大洋 2012年11月29日 17時03分

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 もう一つ参考になりそうなのは、昨年不成立に終わったAT&TによるT-モバイルの買収。この時の予定金額は390億ドルだった。「どれくらい買収プレミアムが上乗せされているか」「比較的潤沢とされるT-モバイルの保有周波数帯の価値をどれほどと見るか」など、さらに材料をあつめて考える必要のある点も残っているが、それでもソフトバンクがスプリントに支払う200億ドル強という金額——100%に換算すればざっと300億ドル——が高いかどうかを推測する手がかりになるかと思う。

 いずれにしても、スケールがものをいう装置産業の典型のような通信業界で、しかも新興国などに比べれば政治・社会的な変動要因も少ない米国市場に本格参入するには、途方もない金額——上記に示したAT&Tやベライゾンの評価額のような金額が必要であるということが、こうした数字などから推察できる。

 同時に、前述のWSJの記事には、一年以上前から海外での事業展開を視野に入れていたソフトバンクが「まずはアジアの新興市場での機会を探していた」「米国市場の状況に本格的に目を向けるようになったのは、今年になってから」などとあるから、同社がそんな米国市場で「手の届く範囲の物件」を探していた、あるいはそんな買い物ができるタイミングをしばらく前から伺っていたという可能性も感じられる。

 スプリントの株価は、まとまった額の債権の償還期限が迫っていた1月頃に底を打ち、春先以降は大幅に上昇していたから、ソフトバンクとしてはある程度安心できるまで慎重に様子を見ていたのかも知れない。

 さらに「スプリントがどこかの下位事業者を買う」という話は噂も含めてよく目にしていたのに対し、「どこかがスプリントを買う」という話はほとんど目にしなかったという点も改めて記しておくべきだろう。この理由を考え出すとキリがなくなってしまいそうだが、ざっくりといえば2つの可能性が考えられる。一つはスプリントの事業自体にそれほど魅力が感じられない可能性、もう一つはたとえ魅力のある買い物だったとしても、手を出せそうなプレーヤーがほかにいなかったという可能性となろう。

 スプリントの体力や上位2社との開きなどを考え合わせると、買収先としてそれほど魅力的と思われなかったとしても不思議はない。ただし、過小評価された「商品」に眠る潜在価値を見抜くのが「投資の真髄」とするなら、この点はそれほど取り沙汰すべきことではなくなるだろう。

 一方、後者の点については、2つくらいの要因がすぐに思いつく。

 一つはAT&TによるT-モバイル買収の不成立の影響だ。連邦通信委員会(FCC)や司法省が寡占の弊害を憂慮して買収にNGを出したから、体力のある大手2社は手を縛られることになった。少々まとまった周波数帯をケーブルテレビ事業者などから譲り受けることくらいは認められるにしても、まとまった買い物などはできない——そんなことがはっきりしてきたのだ。

 もう一つ、欧州の大手事業者などが、深刻な経済状況が続くなか、どこも態勢立て直しでほぼ手一杯という点も見逃せない。欧州で足もとを固めたいドイツテレコムは、損切り覚悟でT-モバイルUSAを売りに出そうとしたものの、結局うまくいかなかったことは前述した通り。また、ベライゾン・ワイヤレスのもう片方の親会社であるボーダフォンも、長年の課題だった配当金受取を昨年ようやく実現したばかり(ベライゾン・ワイヤレスからの配当金支払い額は昨年度が100億ドル、また今年度は85億ドルになる見込み)。

 そんなこともあり、ここしばらくは米国市場からお金を引き出すことさえあっても、お金を注ぎ込むタイミングとはいえない——ソフトバンクのスプリント買収発表まではそんな雰囲気が続いていたように思う。

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