タレントマネジメントは“過度な期待”のピーク期にある――。ガートナー ジャパンは2月7日に「日本におけるERPのハイプ・サイクル:2012年」を発表。その中でこうした見解を明らかにしている。
ガートナーではERPを「企業における生産、財務、人事といったバックオフィス業務プロセスを自動化、支援するためのスイートに焦点を当てたアプリケーション戦略」と定義。ERPの定義を具現化するパッケージソフトウェア(ERPパッケージ)もここに含まれる。
同社は「日本におけるERPのハイプ・サイクル」を2008年から作成しており、ERPの活用を検討する日本企業が考慮すべき技術を広く紹介している。成熟しているとみられているERP関連市場でも、革新的な技術や概念が登場し、進化を続けていると説明。最近ではクラウド、モバイル、ソーシャル、インフォメーションという“4つの力の結節(Nexus of Forces)”がかつてないほど強まり、ERPの在り方に影響をもたらしつつあると指摘している。同社リサーチディレクターである本好宏次氏が以下のようにコメントしている。
「クラウド、モバイル、ソーシャル、インフォメーションという4つの力の結び付きが、ERPのアーキテクチャやエンドユーザーの使い方に変革を迫っている。今回のハイプ・サイクルで、高いビジネス貢献をもたらすと見込まれている技術や概念の中にも、これらの力を取り込んでいるものが多く、ERPユーザーは最新の動向を注視する必要がある」
過度な期待のピーク期にあるものの中でも「タレントマネジメント」「従業員パフォーマンス評価」「人事管理システム(SaaS)」といった人材管理、活用を主眼にしたソリューションが、近年クラウドをベースに発展しつつあり、2012年にはSAPやOracle、IBMといったメガベンダーが関連ベンダーの大型買収を進めたこともあって、高い関心を集めている。
こうしたクラウドベンダーは、スマートフォンやタブレットなど各種モバイル端末からの利用、ソーシャル的な体験価値の実装、パフォーマンス管理と要員計画、分析モジュールにおけるビジネスインテリジェンスやビジネスアナリティクス機能の提供でも積極的になっていると本好氏は説明。こうした状況から、4つの力を結び付けて製品として具体化し、エンドユーザーを引きつけることについて、先端事例を提示していると分析している。
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タレントマネジメント・スイートを構成する個々のアプリケーションには、タレントマネジメント・スイートよりも成熟しているものもあるという。これまで市場では、タレントマネジメント・スイートを巡って多くの合併や買収が展開されており、ユーザー企業は人材管理システム(HRMS)を拡大するために、ニッチなソリューション、2~3のモジュールで構成されるミニスイートを導入している。
2012年にはSAPとOracleが専業ベンダーを買収しており、こうした合従連衡は今後も続く見込みとしている。今後は、タレントマネジメント・スイートというカテゴリ自体が変容し、これまで以上に大規模なスイートを購入する企業と、個別のニッチソリューションを導入する企業に分かれていくだろうと予測している。
スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末とモバイルエンタープライズアプリケーション基盤を前提としたポストPC ERPは、事例はまだ少ないが、ERPの操作性を改善し、主要業績評価指標(KPI)をはじめとするデータへのリアルタイムな参照と活用を促進するものとして、生産やフィールドサービスといった現場支援、マネージャーの意思決定支援、各種申請承認など具体的な利用シナリオが見えるようになっている。
4つの力の中でもソーシャルについては、ベンダーとユーザーの双方の取り組みや期待がほかの3つと比べて遅れている感があるという。だが、ソーシャルはクラウドと相まって人材を管理、活用するためのアプリケーションでは、例えばFacebookやYouTubeの企業版と呼ぶべき意欲的な機能が開発されているという。例えば、アクティビティストリームを盛り込んだポータル機能や動画投稿サイト風のラーニング機能などがそれだという。
ERPにおけるインフォメーションの適時適切な活用を促すものとして期待されている組み込みアナリティクスは、定義に若干の揺れがあるという。だが、日系のERPベンダーも含めてベンダーコミュニティでは認知度が高まっていると説明。ベンダー間の協業や買収を通じて獲得したビジネスインテリジェンス機能をERPと組み合わせた提案が活発化しつつあるとしている。
同社は、タレントマネジメントを筆頭に、これらの技術は黎明期から過度な期待のピーク期に至っており、必ず幻滅期を迎えることになると予測している。4つの力の結び付きとハイプ・サイクルの分析から以下のように提言している。
提言1:クラウド、モバイル、ソーシャル、インフォメーションという4つの力を個別に捉えて取り込むのではなく、タレントマネジメントで具現化されているように、2つ以上の力を意識的に組み合わせ、統合し、活用していく
提言2:過度な期待のピーク期にあるからといって飛びつくのではなく、幻滅期にあるからといって見過ごすのではなく、市場における注目度の乱高下の裏で静かに進展する技術の進歩や成熟度の向上、企業事例の蓄積などを冷静に見極め、最適なタイミングで、必要なものを取り込み、ビジネスに生かしていく