前回(企業の礎である「人」を扱うITシステムはどうあるべきか?--まず人事という職務を理解する)は、人事の職務とそれを支援するITシステムについて見てみた。今回は、主にERPパッケージが提供する人事システムについて、日本企業の動きを含めて見ていこう。
今回は、人事システムをより客観的に見るために、ITR(アイ・ティ・アール)のプリンシパル・アナリストである浅利浩一氏に話を伺った。浅利氏は、ERPを専門とするITコンサルタントであり、大学の経営学部でERPについて教えている先生でもある。
雇用状況が変われば人事システムも変わる
まず、近年の人事システムにおける、特徴的な動きや変化は何かについて見てみよう。
浅利氏はまず、2000年以降、非典型雇用の拡大とともに、人事システムにおいてもパートタイマーや派遣労働、契約社員、有期雇用など、多様な非典型雇用形態に対応する機能(Non-Standard Employee Management)が求められるようになったことを挙げる。また、人事マスタをシングルサインオンや入退出管理の仕組みとつなげたり、例えば、パートタイマーがパソコンを使用するための一時的なIDと人事マスタを直結させたりするなど、人事情報の活用に広がりが見られると指摘する。
同氏は「今や日本でも1万人規模の企業で、非典型雇用者の数が300人ぐらいに達している企業が存在する。300人というと中小企業の全従業員数に相当する。こうした非典型雇用の管理機能について高いニーズがあることは確かだ」と話す。
また、非典型雇用の仕組み以外にも、適材配置と採用(Staffing and Recruiting) の仕組みにおいても変化が見られる。厳しい経済環境のもと「社内で時間をかけて人材を育てていくだけはなく、思い切った人員削減や外部からの積極的な人材獲得などにも目が向けられている。人材の流動性が高まるにつれ、人的資源に対する視点についても広がりが出てきている」と話す。
確かに、人事システムパッケージにおいても、そうした動きに対応するよう、適材配置と採用に関する機能強化が行われるものが増えている。
労働力管理(Workforce management)の仕組みは、2003年ごろから北米で注目されてきたものだ。この仕組みについては、「勤怠管理」が発展したような機能に加えて、「人材育成」と「キャリアマネジメント」の両方を兼ね備える機能により、適材適所を実現し、効率よく運用していくための仕組みが提供されるようになったという。
分かりやすい例としては、小売業や流通業での活用がある。売り場に何時から何人をどのように配置すれば、売上を最大化できるかといった、いわゆる「人材のスケジューリング」だ。
従来から現場の配置を計画するシステムは存在したが、人材の「能力」に着目して配置を考える仕組みが人事システムに含まれるようになった。日本の航空会社においても、キャビンアテンダントの配置に利用されている例があるという。
「非典型雇用への対応」「適材配置と採用」「人材の“能力”に着目した労働力管理」……これらの3つの仕組みが、近年の人事システムにおけるトレンドと言えそうだ。
一方、人事管理とは異なり、給与計算や各種申請などベーシックな人事業務の機能については「製品間の差はほとんどない」と浅利氏は言う。グローバルに事業を展開しないのであれば国産パッケージで十分なケースも多いというわけだ。