三国大洋のスクラップブック

「国民監視」は米国の隠れたお家芸?--NSAスキャンダルの落ち穂拾い

三国大洋

2013-07-10 12:00

 「NSAスキャンダルの落ち穂拾い」--第1回 サイバーセキュリティ予算でバブるワシントン第2回 ブーズ・アレンの「マッチポンプ」に続く第3回。

 南北戦争のさなかの1862年に、時の大統領Abraham Lincolnが署名した「国民の監視活動を認める書簡」が米連邦議会図書館に保存されている……そんな話を記した寄稿記事が先週末にThe New York Times(NYTimes)に掲載されていた。今なお続く米国家安全保障局(NSA)スキャンダルを当て込んだ「盗聴・国民監視ネタ」の1つといえるが、ちょっと珍しい類の話と思えるので、この話と、ネット時代が到来する前から行われていたアナログ「メタデータ」収集の話を紹介する。

電信網をハック--150年前の監視活動

 Saint Michael’s CollegeのDavid T. Z. Mindichという教授(専門はメディアやジャーナリズムの研究とか)の記事によると、南北戦争中に戦争長官に任命されたEdwin Stantonなる人物は、就任後まもなくLincolnに宛てて、任務遂行上必要となるさまざまな権限の付与を求める書簡を送付したという。そして、Stantonが要求した権限の範疇には、当時普及が始まっていた電信網のハッキングも含まれていた。

 WikipediaにあるElectrical telegraphの項目をみると、「米国でモールス信号をつかった電信が開発されたのが1836年(実験成功は1838年1月)」「1843年には連邦議会で実験用電信網の敷設のために3万ドルの予算を出すことが決まり、翌年には完成したこの通信網を使った最初のデモも行われた」「1861年には最初の大陸横断ケーブルが完成、当時東部で拡がりつつあった電信網と、カリフォルニアの小規模なネットワークが接続された」「1846年には合わせて40マイルに過ぎなかった電信網が、1852年には2万3000マイルまで拡大していた。通信コストも1850年の1.55ドルから、1870年には1ドルまで低下していた(いずれも10ワード単位)」などといった記述に行き当たる。

 要請の書簡に「戦争長官(The Secretary of War)に対し、記載された事項に関する裁量権を与える」というLincolnの裏書き(註1)をもらったStantonは、電信網のケーブルを自分のオフィスに引き込み、やりとりされる通信がすべて自分の手元を通過するように変更。その結果、報道関係者や政府関係者の通信、そして個人的なやりとり(私信)まで、すべての電信の内容がStantonによって掌握されることになったという。

 大量に流れる情報を一気に捕捉するために、情報の迂回路を引いてしまうというのは、当事者にとってはごく自然に行き着く理にかなったやり方かもしれないが、現在疑惑が浮上している米NSAや英国の政府通信本部(Government Communications Headquarters:GCHQ)による海底ケーブル網へのアクセス権限確保(註2、3)の原型とも思えて、いささか興味深い。

 Stantonは電信網を押さえることで、報道機関を管理下に置いただけでなく、秘密警察のような活動にも乗り出し、その2つを担当する専任の補佐官も任命。中には、Stantonらが自分たちにとって都合の良くない記者を逮捕した例などもあったとMindich教授は記している。

 いかに戦時下とはいえ、いささかやり過ぎと思えなくもないこの措置は、さっそく権力の乱用につながった。そして、同じ1862年には早くも米下院の法務委員会でこの「電信の検閲活動」が問題として採り上げられ、一部の行為については自制を求める要請も出されていたという。

 Mindich教授は、南北戦争当時にあった政府による検閲や、後に戦時下で行われた同様の行為について、非常時における「必要悪」とする見方を示し、そうした行為がいずれも終戦とともに姿を消したことから、NSAの問題についても(現状では一見不可能にも思える)テロ行為との戦いを終わらせるために動くことが問題解決に向けた第一歩となる、といった考えを示している(正論といえば正論といえようが、いささか理想論に過ぎるきらいがあるようにも思われる)。

 NSAの問題は改めて言うまでもなく、米国や欧州だけにとどまらない話だが、とくに米国ではJ. Edgar Hoover(初代FBI長官)のような人物がつい40年ほど前まで実在していたことを考え合わせると、報道機関や人権団体の関係者が敏感にならざるを得ないのも不思議なことではないと感じられる。

 そうしてまた――これはまったくの余談になるが――Hooverの生きていた時代に、もし同姓婚が認められていたら、そのことがHoover自身や、米国の社会にどんな影響を及ぼしていただろうか……そんなちょっと興味深い疑問も浮かんでくる。

 さて。いったん便利なモノを手にすると、なかなか手放せなくなるのが人の常……そんなことを思い出させる話がやはりNYTimesに掲載されていた。郵便物をめぐっていまも続いているとされる情報収集・監視活動をめぐる話である。

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