オフショア開発、ベトナムの魅力とは--エボラブル アジアに見るビジネスの流儀(3)

坂本純子 (編集部)

2013-08-06 07:30

 オフショア開発の拠点として注目を集めているベトナム。2012年3月からオフショア開発を手がけるエボラブル アジアはベトナムで急成長している企業の1つだ。第1回第2回に続き、最終回はベトナム人のモチベーションをアップするための同社の施策について聞いた。

ベトナム人モチベーションアップのために--エボラブル アジアの施策

MVP表彰式に集まったスタッフ
MVP表彰式に集まったスタッフ

 売り手市場にあるベトナムエンジニアは、離職率も高い。エボラブル アジアでは、日頃のスタッフ同士のコミュニケーションだけでなく、さまざまな施策を行っている。

 「スタッフに納得してもらえる人事制度になっているかが大事。正直、手間だけれど、人事の査定は年に2回やる。キックオフなどのミーシングも定期的に行っているんです」(エボラブル アジア代表取締役社長の大山智弘氏)

 「本質的には、長くいられるならいたいと思っている」──大山氏はそう見る。

表彰状と金一封が贈られる
表彰状と金一封が贈られる

 四半期毎にMVPを選出して表彰するのも、スタッフのモチベーションを上げる施策の一つだ。駐在する各企業のマネージャーらがそれぞれスタッフを選出し、選ばれた理由を述べながら全員の前で表彰する。プレゼンテーションは日本語とベトナム語で表示され、スピーチは日本語またはベトナム語に通訳される。

よかったポイント、改善ポイントを明確に--MVP表彰式

MVP表彰式の様子
MVP表彰式の様子

 表彰は、特別賞(シルバー)、優秀賞(ゴールド)、最優秀賞(ダイヤモンド)の3段階があり、いずれの場合でも賞状と賞金が授与される。該当なしの場合もあるという。

 受賞には「○○の作業を効率化し、作業負荷を軽減した」など、受賞理由を明確にした上で「でも、もうちょっと遅刻がなかったらゴールドにできた」などと場合によっては改善ポイントを促す。受賞者ははにかみながら、うれしそうに仲間のいる席に戻っていく姿が印象的だ。

MVP表彰式の後に記念撮影を楽しむ様子
MVP表彰式の後に記念撮影を楽しむ様子

 これらの表彰式は土曜日に行われているという。表彰式の後は、会社が用意したレストランに移動して食事をする。あとは自由解散だ。

 表彰式が終われば、仲間たちと記念撮影し、レストランで食事を楽しむ。その賑やかな様子からは、サークル的な雰囲気も感じられる。

表彰式後のレストラン。回転寿司と思いきや、このレストランのメインはしゃぶしゃぶ。寿司も一部含まれるが、肉や魚、ラーメンなどさまざまな食材が回る
表彰式後のレストラン。回転寿司と思いきや、このレストランのメインはしゃぶしゃぶ。寿司も一部含まれるが、肉や魚、ラーメンなどさまざまな食材が回る

 日本なら、「表彰ならウイークデーにやってほしい」そんな声がでてもおかしくないところだが、ベトナムでは休日に会社の仲間と過ごすことは特別なことではなく「喜んできてくれる」と話す。逆に言えば、ある程度密接な付き合いが必要になるともいえる。

プレゼン資料はベトナム語と日本語が用意される。エボラブル アジアは2014年3月末までに300人体制を目指す
プレゼン資料はベトナム語と日本語が用意される。エボラブル アジアは2014年3月末までに300人体制を目指す

 「ワニツリをしにいったりして休日に会うこともある。この国の人は人情に厚くて、みんなで固まってなにかするのが好き。うまく仲良くやっていくことでコミュニケーションがとれる」(旅キャピタルの村田亮二氏)

エボラブル アジアの経営理念
エボラブル アジアの経営理念

 エボラブル アジアでは、スタッフが増えることを「家族が増える」と表現する。大山氏は日本での営業状況や離職率(2013年1-3月期は8.3%)など、オープンに説明する。「新しいラボを増やすのも大事だが、より今のものを効率的にすることも大事」と話し、新規クライアントも既存のクライアントも大事と説明した。

 大山氏は「なぜ拡大するのか、目標を達成することが皆にとって有益で皆が幸せになる手段。日本だからベトナムだからということとは関係なく、CS(顧客満足)、ES(従業員満足度)を世界を軸に追求する」とスタッフに説く。

グローバルで見たときの適正給料、考えるきっかけに

エボラブル アジア代表取締役社長の大山智弘氏
エボラブル アジア代表取締役社長の大山智弘氏

 大山氏がオフショア開発に興味を持ったのは「日本には人がいない」ということだったという。新興国なら日本人の新卒の給料で、アウトプットレベルが高い企業のマネージャークラスが雇える現状に複雑さを感じたという。

 「オフショア開発は、日本の経済を食いつぶすなどと言われるけれど、そうじゃない。グローバルでフラットに見たとき、40万の給料は高い。それに気づいてもらって、キャリアを考えるきっかけにしてほしい。能力はあるのに、ご飯が食べられないというのはおかしいですよね。僕だけもうけよう思っているわけではありません。いい意味での危機感をもってほしい。『グローバルなSEにならないといけないよね』とプラスの発想になるきっかけの会社であるといいと思っているんです」(大山氏)

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