働き方論がブームのようだ。2012年発売された2025年の未来を描いた『ワークシフト』は日米で10万部を越えるベストセラーとなった。国内でも、「ノマド」と呼ばれる働く場所や組織に縛られない働き方が注目を集めたことをきっかけに、さまざまな論者が「新しい働き方」を提唱している。
筆者も「新しい働き方」の必要性を感じ「正社員」という職を持ちながら、執筆や講演、TVやラジオでのコメンテータも行う「パラレルキャリア」を実践している1人である。その一環として先月『ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦』という書籍を書いた。これは、クラウド、ソーシャルメディア、スマートデバイス、ビッグデータ、モノのインターネット(Internet of Things:IoT)が、新たな社会基盤となり世の中にどんな変化をもたらすのかを書いた物だ。
この書籍を書くためにさまざまな企業へ取材を行ったが、この新たな社会基盤の登場によって、インターネットの重力が高まり、あらゆる産業の顧客がインターネットへ奪われており、従来のビジネスで勝つためのルールが大きく変化していると実感した(以降、クラウド、ソーシャルメディア、スマートデバイス、ビッグデータ、IoTをまとめて「4+1の力」と表記し、新たな社会基盤を「融合する世界」と表記する)。
そして、これらの社会基盤によって「働き方」も大きく変わって行くだろうと考えた。幸いにも今回こちらで連載の機会を頂いたので、これからの時代の「企業と従業員の関係」について「ワークシフト論」を皆さんと一緒に考えてみたい。
連載第1回目となる今回は、現在国内で語られる「新しい働き方論」についてである。
国内の「働き方論」に感じる違和感
国内で語られる「新しい働き方論」にはどこか違和感を感じずにはいられなかった。全ての論者がそうだとは言わないが、「働き方論」が論者のブランディングの道具になっているのではないか、ずっとそんな違和感を感じていた。というのも、国民の大多数を占めるはずの「サラリーマンの視点」や「企業側の視点」の視点が考慮されておらず、安易にフリーランスが新しい生き方だと語る。今の厳しい経済状況を考えれば、それが多くの人の救いになるとは思えなかったからだ。
なぜそうなってしまうのかと思い、国内の論者たちを観察して見ると、その多くがフリーランスであり、ターゲットを「若者」にしていることに気付いた。
論者達のビジネスへの勧誘が目的ではないか
ソーシャルメディアが与える社会への影響を考える、ある社会学者の方が筆者を訪ねてこう言った。「最近の働き方論は、若い人たちをターゲットに貧困ビジネスを展開するのが狙いではないか?」と。彼の仮説はこうだ。会社を悪と見立て退職に追いやり、社会の常識から切り離し、低賃金で割の合わない仕事を斡旋し仲介料を取り、フリーランスとして成功するための高額なセミナーや著書の購入を勧める。まだ世間を知らない学生なら価値観を操ることもたやすい。まんまと彼らの手口にはまった若者たちは正社員というレールに復帰することができず、彼らの貧困ビジネスの市場から抜け出せなくなってしまう、という筋書きだ。
この仮説の全てに同意するわけではないが、実際、バブル期にメディアが盛んにもてはやした「フリーター」を例に出して、現在の安易な「フリーランス推奨論」を危惧する識者は少なくない。安易に「フリーランス」を勧める論者に対しては、どこか論者たちのビジネスへつなげることが目的であるように見えてしまうのだ。