次は独立支援の狙いについて教えて下さい。社員が独立することの企業にとってのメリットは何があるのでしょうか
山田「この制度はまだ検討中なのですが、言葉通り社員が起業することを支援する制度です。メリットとしては社員が独立すれば事務処理などの管理コストが削減できますね。でも、本当の狙いはそこではないのですよ」
大元「といいますと」
山田「企業としての"雇用責任を果たしたい"と思っています」
大元「従業員の独立支援が、企業にとっての雇用責任だと?」
山田「そうです。もう今の時代定年退職まで安泰などという保障は誰もできないです。もしサイボウズが来年潰れたらどうなるか。その潰れた時に今まで一緒に働いてきた従業員達に“これからはお前たちの力で生きて行け”と言うのは、何とも忍びない。いざという時のために社員が自立できるように成長する場を与えることも、企業の雇用責任なのではないかと考えているのです」
大元「社員の独立支援は不安定な時代の雇用責任の一環、ということですか。今、独立支援を宣言してる人はいますか」
山田「この制度は始めたばかりなので、まだいません。しかし、独立支援に関する社内セミナーを行いましたが参加者は30~40人くらいは居ました。
大元「30~40人くらいというと御社の約1割位に該当すると思いますが、もし彼らが突然独立してしまったら戦力ダウンになりませんか?」
山田「そうは思ってません。私たちは別に社長の青野を金持ちにしたいと思ってみんな仕事してるわけではないので(笑)。サイボウズのDNAを世界に広めたいと思っています。独立してそのDNAが世界に伝承されていくのは良いことだと考えています」
大元「確かに海外では元Paypal出身者がLinkedinやyoutubeの創業に携わって“Paypalマフィア”と呼ばれるなど、どこかの会社を離れて独立したメンバーが助け合って各々が成功しているパターンはありますね。サイボウズの独立支援によってサイボウズマフィアが日本でも生まれるかもしれませんね」
山田「会社としても"企業の言いなりになって転勤やらに応じる"だけの人はいらないと考えています。自立して能動的に動ける社員が今の企業経営には欠かせないと思います」
自由な人事制度、働き方をサポートするために工夫していることは
大元「人材計画の立案、評価、目標や学習管理、人材配置などができるタレントマネジメントツールなどは採用しているのでしょうか」
山田「職務経歴書をデータベース化したりはしていますが、タレントマネジメントというレベルのものは採用していません」
大元「なるほど、個性的な人事制度のように思いますが、ツールありきではないと」
山田「そうですね。社内公募制度は検討したことがありますが、止めました。あれはある程度の規模の会社でないと機能しないと思います。弊社くらいだと人数が少なすぎて応募しても採用されない可能性もでてきます。公募制度なのに採用されないとメンバーのモチベーションが逆に下がるので止めました」
大元「では、特に人事管理ツールなどは特別な物は取り入れてないと。」
山田「私は経験上300人くらいまでの規模なら特別なツールなど用いなくても社員をきめ細かく管理することは可能だと思ってます」
在宅勤務用の仕組みやBYODについて
山田「東日本大震災以降、全社員に対して在宅勤務を可能にしました」
大元「BYOD も取り入れているのですか」
山田「はい、証明書発行形式のものを取り入れています。そもそも弊社はクラウドのグループウェアに強みを持っていますから、社内のあらゆる作業はサイボウズのクラウドで完結できます。事務から開発まですべてです」
グローバルを目指さずに地域とともに生きる「企業」は成立可能だと思いますか
山田「グローバルを目指さなくても良いかという点は、企業によって事情が異なるとは思います。しかし、地域と共に生きる「企業」という点では、むしろ中小企業はそれができないと生き残っていけないのではないでしょうか」
大元「なるほど、成立可能というより必須だと」
山田「そうですね。そうしないとグローバル云々の前に、国内の大企業にやられてしまう。大企業の苦手としている部分を、中小企業がフォローする。女性の活用や、地域コミュニティとの共生などです」
大元「長時間のインタビューにお答えいただきありがとうございました」