三国大洋のスクラップブック

iPhone製造に外国人出稼ぎ労働者の搾取問題が新たに浮上

三国大洋

2013-11-11 20:32

 先週末に出たBusinessweekに、iPhoneのサプライチェーンで生じたトラブルに巻き込まれて大変な目に遭ったというネパール人出稼ぎ労働者を取り上げた特集記事が掲載されていた。

 スマートフォンといえば、最新鋭のハイテクガジェットの1つと言って差し支えないはずだが、それが出来上がってくるまでの水面下の部分では何百年も前と変わらぬような搾取がいまだに行われているという話で、人間の社会に内在する業(ごう)のようなものを強く思い知らされる興味深い話でもある。

An iPhone Tester Caught in Apple's Supply Chain - Businessweek

 この話に登場するのは、2012年9月に「iPhone 5」を投入しようとしていたApple、その下請けとしてiPhoneのカメラ(レンズ部分)を製造したFlextronics(大手OEMメーカーの1つ)、同社のマレーシア工場に出稼ぎにいったBibek Dhongというネパール人青年、そしてDhongのような人手の確保に絡む複数の人材斡旋業者(ブローカー)といったところ。

 記事の冒頭には、カリフォルニアでの特別イベントでiPhone 5を発表していたPhil Schillerの様子が描かれているが、実はその時地球の裏側ではたいへんな騒ぎが起こっていた――という内容だが、長い話を端折ると、Flextronicsでは非常に短期間に大勢の工員を確保しなくてはならず、結果的に同社やAppleの目が届かない人材斡旋ブローカーまで使うことになった。

 またそうしたブローカーは外国に働きに出る労働者から少なくない額をあらかじめピンハネしており、労働者自身の手元には運が良ければ多少の金が残る、またDhong青年のように問題が起これば借金しか残らない、といった実情だそうだ。

 このあたりの仕組みや実情を箇条書きにしてみると、次のような感じになる。

  • Dhongはカトマンズ近郊で農家をしていたが、水害で家も作物もやられてしまい、町に出て牛乳工場で臨時雇いとして働いていた。結婚したてで妻や乳飲み子のほか親族も養わなければならず、いい出稼ぎ先があれば紹介してほしいとあるブローカーに声をかけてあった。Dhongはネパール出国までに結局1000ドルを3人のブローカーに支払った(そのほとんどが前借り)。
  • Flextronicsのマレーシアにある工場には、ネパールのほか、インドネシア、カンボジア、ミャンマー、ベトナムなどからもたくさんの労働者が出稼ぎに来ている(Dhongの働いた工場には、ベトナムやインドネシアから約3000人が働きに来ていた)
  • DhongがFlextronics工場でもらえることになっていた賃金は月額178ドル。つまり運良く一年間働くことができても、半分以上をブローカーに持っていかれることになる
  • 出稼ぎ労働者は、マレーシア入国直後にパスポートを取り上げられた上で、Flextronicsの用意した寄宿舎に送り込まれる(例によって、複数の大人が相部屋)
  • AppleもFlextronicsも、直接契約する人材派遣業者にはこうしたピンハネを禁じている、だが一声で数千人~といった数の労働者を集めるのは実際にはかなり難しく、そこにグレイなブローカーが介入する余地が生じる。またAppleでもそうした慣行の存在を把握しており、改善に努めているという
  • 人集めの急ぎ方は相当なもので、ネパールでは外国での就労許可証発行に関して法律で定められた7日間の待ち時間を省くよう政府の役人にさえ圧力がかかった
  • カメラのレンズ工場でDhongに割り当てられた仕事は製品の検査で、朝7時からの12時間勤務、しかも休憩の時以外は立ちっぱなし……と、ここまでは過去に出ていたFoxconnあたりの組み立てラインの話をほぼ一緒との印象
  • 想定外のトラブルが生じたのは、Dhongが働き始めてから間もない11月に入ってのこと。このころから不良品の増加が目立つようになり、同月末には生産がほぼ停止状態に。不良品率はかなりひどく、一時は「10個つくったうち7個が不合格」といったありさまで、結局この工場での生産は12月半ばで打ち切られたが、Dhongらはその後20日あまりも何も知らされず、ただ寄宿舎で待機するしかなかった(表に出てぶらぶらしていると、マレーシアの警官から嫌がらせを受ける、とか)

 Flextronicsの出稼ぎ工員に正式な解雇が伝えられたのは1月10日。当初は2月分までの賃金を支払った上でそれぞれの国に返すとの話だったが、すぐに帰国できたのは約200人ほどにすぎず、約1300人が寄宿舎に軟禁状態となった。

 そんな状態が2月後半まで続き、次第に金も食べ物も底を尽きかけて、ついには一部で騒ぎが生じた(部屋の窓ガラスをわったり、7階の窓からテレビを投げ捨てたり、など)。それで地元警察が出動したことをきっかけに、工員の本国送還が再開した。

 ネパールに戻ったDhongは日当3ドルの仕事(靴工場の検査員)を見つけたが、斡旋料前借り分の残額がだいぶ残っており、このままではどうにもならないから、また新たに借金して、国外に働きに出るしか悪循環を断ち切る手がない……といった状態。また、同様の境遇にある元出稼ぎ労働者も多く、家財全てを処分して借金を支払った者や、同じようにしてつくった金を紹介料に充てて、また割の良い国外での仕事につくことを望んでいる者も珍しくないという……。

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