(編集部註:経営共創基盤は、2007年に解散した産業再生機構専務の冨山和彦氏ら元幹部約10人が中心になって同年4月に設立。大手商社や金融機関が出資し、資本金は56億円。経営難に陥った企業を再生させるため、出資や経営人材を投入し企業合併・買収(M&A)やリストラなどで、支援企業の価値を高める。現在、チケット販売のぴあや、東北を中心にバス会社の経営支援などを手がけている。)
事業再生という仕事
この10年間、旧産業再生機構から現在の経営共創基盤での仕事の中で、多くの業績不振企業を、時には投資家として、時にはアドバイザーとして支援してきました。その中には、大きく成功したものもあれば、思うようにいかず苦戦したものもあります。
連載の中で、成功や失敗の経験で培ったことを、事例を交えながら紹介したいと思いますので、お付き合いのほどよろしくお願いいたします。連載1回目は、今後の方向性を示すために、全体的な観点から始めます。
事業再生というと何やら取っつき難く、暗い印象を持っている方も多いと思いますが、本質的には非常に単純です。
売上-コスト=利益≧ゼロ
というシンプルな等式を成り立たせればいいのです。ただ、この等式を成り立たせるためには、戦略、オペレーション、IT、財務、法務などのハードスキルから、社員の士気向上といった曖昧模糊としたソフトスキルまで求められます。また、事業再生の期間中は、オーナー一族間の争いや幹部間の覇権争いなど、平時ではあまり見かけることのないさまざまな事柄が短期間で発生するので、ある種の集中力も求められます。
一方、この嵐が吹き荒れる再生時期は、辛く耐え忍ぶ時期である反面、実は非常に貴重な機会であるとも言われます。実際、これをチャンスととらえ思い切った構造改革を実施し、その後、過去最高益を達成した企業も少なくありません。
最近の経営共創基盤による事業再生の実績
図は、最近のターンアラウンド実績で、この間の生々しくも、示唆にも富む人間ドラマを通じ、一回りも二回りも大きくなった社員の方も多く目にしました。
危機感の醸成が重要
筆者が以前担当した、小売業A社も2010年前後、業績が大きく悪化し倒産の淵まで追い込まれました。しかし、その後再生に見事に成功し、現在は2期連続で過去最高益を達成しています。今回は、その事例を取り上げながら再生フェーズの際に踏むべき基本的なポイントについていくつかご紹介したいと思います。
再生局面において最も留意すべきことは資金繰りです。資金ショート=会社の死を意味します。この資金ショートというのは、非常に怖い言葉ですが、会社の危機感を醸成する特効薬として機能することもあります。