今回は本好き――特に経営関連の話題を扱った翻訳もの、某オンライン書店で「本>ビジネス・経済」「本>コンピュータ・IT」あたりに分類されていそうなものをよく読むような人で、しかもスポーツにも高い関心を持つ、というような人に喜んでもらえそうな話を書きたいと思う。では、さっそく。まずは“話の枕”から。
Paul Maritz(元Microsoft幹部、VMWare前CEO=最高経営責任者、現在はPivotalのCEO。PivotalはEMC、VMware、General Electricのジョイントベンチャー)がGigaOM主催の「Structure Data」カンファレンスに登場して「リアルタイムのデータ分析活用が農業から航空機、医療関連までさまざまな分野で進んでいる」などと話していたようだ。
Maritzが相手にする顧客の間では、もう単なるビッグデータ活用だけでは競争力にはつながらず、データの収集・分析と結果のフィードバックをリアルタイムでやって、その場で問題解決に役立てられるかどうか…。それがポイントになっていると、このセッションのことを伝えたGigaOM記事には書かれている。
この記事を斜め読みしていて、パッと思いついたのはBilly Beane――Michael Lewisの例の大ベストセラー『Moneyball』の(映画ではBrad Pittが演じていた)「主人公」Oakland Athletics(A's)のゼネラルマネージャ(GM)のことだった。ただし、Maritzの頭の中にメジャーリーグ(MLB)をはじめとするスポーツの分野が含まれていたかどうかは定かではないが。
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Billy Beaneのことを思い出したのは、前日にGrantland(長文記事が売り物のESPN系のスポーツ&エンターテインメント系サイト)に出ていた彼のインタビュー記事を目にしていたから。「Beane Counters」というタイトルのこの記事の中でBeaneは「そのうち“IT専任コーチ”が登場し、ダッグアウト(ベンチ)で監督の横に座ってリアルタイムでデータ解析(“crunching numbers in real time”)するようになるだろう」などと口にしている。リーグ全体の取り決めなどがあってまだできないけれども、MLB事務局からOKが出れば「すぐにもやりたい」といった感じが伝わってくる。
3月初めにThe Economistに出ていたコラムで「CrayのUrika(YarcData Urika Big Data Graph Appliance)という製品を導入したMLBのチームがある」という同社CEOの話が紹介されて、一部で話題になっていた(それに絡めて「Crayの製品だと最低でも50万ドルはする」といった話も出ていた)。そうした動き、あるいはMLBがリーグ全体ですでにいろんなデータ関連の取り組みを進めていることなどを考え合わせると、“IT専任コーチの登場”というBeaneの見通しもかなりリアルなものと感じられる。
『Moneyball』が世に出てからもう10年以上の月日が経つ(あの話の「舞台」になっていたのは2002年のシーズンだったと思う)。あの話の中ではPaul DePodestaというハーバード大学で経済を専攻した若者がパソコンを叩いていた。
それが今ではスパコン(あるいはクラスタやクラウドに置き換えてもいいかもしれない)に変わっている。その間に一般社会でみられた変化、大金の動くメジャースポーツ(一大ビジネスとなっているNCAA大学フットボールやバスケットボールも含めて)の性格を考え合わせると、この変化自体はそれほど意外なことではないかもしれないが、いずれにせよ『Moneyball』で描かれていたようなやり方――資金力などで劣るチームが数字に明るい人間を連れてきて差別化のヒントを探し、ある種の“効率経営”を実現する、という球団経営の切り口が、この10年ですっかり当たり前のことになってしまった(つまりは「コモディティ化」)。
しかも、2013年シーズンの覇者であるBoston Red Soxのように、きちんとデータも駆使しつつ、同時に選手獲得に大金を出せるようなところも出てきている…。そんな現状認識をベースに「じゃあ、(いまだにお金のないA'sでBilly Beaneは)これからどうしていくの?」というのが、前述のGrantland記事の主題になっている。