「今のクラウド市場には、本物のクラウドと偽物のクラウドが混在している」――ガートナーリサーチ バイスプレジデント兼最上級アナリストの亦賀忠明氏は、ガートナージャパンが先週、都内で開いた「ガートナー ITインフラストラクチャ&データセンターサミット2014」の講演でこう語った。「クラウドにおける“よくある失敗”」をテーマに講演をした亦賀氏が挙げたいくつかの失敗例から、特に印象強かった3つを取り上げておきたい。
ガートナーリサーチ バイスプレジデント兼最上級アナリスト 亦賀忠明氏
まず1つ目は、「クラウドだと思ったら、クラウドではなかった」という例だ。冒頭で紹介した亦賀氏の発言は、この例における重要な認識を述べたものだ。
同氏によると、本物のクラウドは標準サービスが用意されており、自動化された運営形態によって低コストでの利用が可能だ。一方、偽物のクラウドはユーザーの要望に応じてカスタマイズできるが、コストは割高という類だ。この偽物のクラウドは、実はアウトソーシングや仮想ホスティング、またはマネージドサービスと呼ばれるものであることが少なくないという。
とはいえ、偽物を排除すればよいという話ではない。同氏が強調したのは、クラウドには「松」「竹」「梅」の3つのクラスがあるということだ。何が違うのか。サービスレベルの重要な指標である年間の稼働率でいうと、松はファイブナイン(99.999%)、竹はフォーナイン(99.99%)、梅はスリーナイン(99.9%)というのが同氏の見立てだ。このクラスで分けると、偽物のクラウドは松か竹であるケースが多く、本物のクラウドの大半は梅に相当するという。本物のクラウドを選択するためには、こうした区別を明確にする必要があるというのが、同氏の話から得た教訓である。
ユーザーを惑わせる「クラウドファースト」
2つ目は、「ベンダーにクラウドの見積もりを頼んだらコストが高かった」という例だ。亦賀氏は、ユーザーがベンダーに見積もりを依頼する段階でさまざまな要望を出すケースが多いため、それだけカスタマイズの工数がコストに積み上がってしまうと指摘する。
つまりは1つ目の例と同じく、ベンダーの見積もりには本物のクラウドではなく、偽物のクラウドが適用されてしまうというわけだ。「コストを抑えたいならば、本物のクラウドの標準サービスをそのまま利用すべきだ」(同氏)というのが、この例における教訓である。
そして3つ目は、「なんとなくクラウドを選ぼうとしている」という例だ。同氏はこの例について、「昨今、クラウドファーストをキーワードになんでもかんでもクラウド優先という風潮が高まっており、それに押されるようにクラウドを導入するケースが見受けられる」との懸念を示した。
こうなると、またもや本物のクラウドをきちんと選択できるか、という疑問が出てくる。それもさることながら、同氏は「クラウドは本来、業務の効率化や生産性向上を図るための手段。したがって、まずはどんな業務をどう良くしたいのかをしっかりと考えることが肝要だ」と指摘する。
その上で、本物のクラウドを有効活用するために、業務の棚卸しと仕分けにより、梅クラスの標準サービスで賄える部分を増やしていくのが得策だという。改めて、クラウド利用における目的は業務改革によるビジネスの拡大であり、クラウドそのものはその手段であることを肝に銘じておきたいものである。
以上、亦賀氏の講演から3つのクラウドにおける失敗例を紹介してきたが、共通して言える教訓として筆者の頭に浮かんできたのは、「偽物のクラウドにだまされるな」だった。