--3Dプリンタは製造業の産業構造にどのような影響をもたらすか。
3Dプリンタが金型屋さんの仕事を奪うのではないかという議論がありますが、棲み分けはできると思っています。産業レベルで使うとなると3Dプリンタは現在、大量生産には適していません。金型を起こした方が効率が良くなる分岐点があります。モノ作りには適材適所が重要です。
zecOOのスケールモデル
電動バイク「zecOO」では、本物とほぼ同じ素材を用いてNC切削でフレーム部品のスケールモデルを作成したり、3Dプリンタでバイク全体のスケールモデルを作成したりしました。スケールモデルはすべて、本物と同じデータで作っています。これによって、手軽に触ってもらい完成形をイメージしてもらえます。
コミュニケーションをデザインする
--相手のニーズを汲み取るための工夫とは。
どうすればコミュニケーションが活性化するかということを、常に考えることだと思います。最初から実りのある会話ができればいいですが、なかなかそうはなりません。そういうときに、まずはボール球でもいいから投げてみることが大事です。「違う」と言われればこっちのもの。そこからコミュニケーションを広げられます。
相手も何かを良くしようとしてそこに座っているわけですから、ボールを投げてみて帰ってくることに耳を傾ける。それが、当たり前ですが大事なことだと思います。
所属している部署の違いや思惑など、背負っているものが原因で、表面的にネガティブな意見に感じることがあると考えています。批判を分解していけば実は同じ意見であることも考えられます。
コミュニケーションが創造の原点であり、アイデアは双方向的に引っ張り出しあうものだと思っています。どれだけコミュニケーションをしてアイデアを引っ張り出せるか。そこを一番得意にしているので、肩書きを「クリエイティブコミュニケーター」にしています。
--会社の上層部と現場が価値観の違いをすりあわせていくには。
特にハードウェア製品のデザインでは、上層部との価値観のすりあわせはより難しいと思います。完成度を高めないと良さが見えてこないこともあるからです。しかし、そのステップに進むために、完成度の低い状態で見せなければならないこともあります。このパラドックスを解くのは難しいですが、3Dプリンタを使うことで、以前よりより早い段階で、完成度の高いものを手軽に作ることができるようになってきています。
ただし、いくらツールがよくなったとしても、ものづくりを進めていくためには情熱が必要です。情熱を持って一歩踏み込んで、「ここまではやらせてください」と言うことも大事です。 また、ディレクターのみなさんには「目利きであれ」と言いたいです。「わからない」ではなく「わかろうとする」。そのプロジェクトの真髄を見極めて、可能性があると感じたらちゃんと伝える。ダメなところは指摘する。それは経験値のなせる技です。ディレクションしないならディレクターではありません。
現場では上層部を納得させるための方策が増えていますし、上層部はより早い段階で目利きをしてプロジェクトの良いところを伸ばしていく、ダメなところは早めに察知して伝えることが重要です。ツールが進化すればするほど、そういう能力は今後、もっと大切になっていくでしょう。