個人向け携帯電話市場が飽和する中、各通信キャリアとも法人向け事業に力を入れており、競争が激しくなってきている。NTTドコモは、自社で扱う商材の認知度を高めるため、新たな施策に取り組み始めた。iOS/Androidアプリを通じて、ユーザーの端末にコンテンツを配信する「ビジどこ」だ。
膨大な商材情報をいかに提供するか
ドコモの法人向け営業部門は5000人超の人員を擁する巨大組織だ。携帯電話回線やサービス、各種端末など自社の商品だけでなく、パートナー企業の商品やサービスも取り扱い、膨大な数の商材をそろえている。
ドコモの法人事業部 法人ビジネス戦略部長の松木彰氏は「自社商材、すなわち回線や端末だけで勝負していては、各社横並びなので価格競争に陥るばかり。これでは業界の将来は明るくありません。われわれは単なる答えを提供するのでなく、隠れたニーズにも目を向け、解決策として提案していくよう心掛けています」と話す。
ドコモの法人事業部 法人ビジネス戦略部長の松木彰氏
しかし、ソリューションとして提案するのは困難とも言う。商材の数は非常に多く、とても全てを覚えきれるものではないからだ。例えば「ビジネスプラス」というサービスパッケージは、メニューとして用意されているビジネス向けクラウドサービスの中から、ユーザー企業が必要なものを選んで組み合わせ、1アカウントあたり月額500円から利用できるパックメニューだ。選択できるラインアップは8月の時点で23種にものぼる。
こうした各商材を完全に把握して提案するのは確かにに難しい。加えて、新たな商品やサービスも頻繁にリリースされるが、こうした情報は社内でも直前まで解禁できないことが多い。一方で、リリースされれば即座に販売活動を開始せねばならず、現場の営業担当者が新たな商材を理解するための時間を確保するのが困難になってくる。
顧客に提案するだけでなく、数千人もの営業現場にも情報を届ける仕組みが求められているのである。
紙媒体からスマートデバイスへのデジタル配信へ
こうした商材やユーザー事例などについての顧客向け情報は、ウェブサイト上のコンテンツとして公開すると同時に、パンフレットなどの紙媒体として配布するのがこれまでの基本だった。しかし、情報量が膨大になるため、パンフレットでは網羅できない。そこで、デジタルコンテンツとして顧客や営業が持つスマートデバイス向けに配信する仕組みを模索してきた。
「以前、タブレット端末向けにカタログコンテンツを配信する仕組みを導入したのですが、そのシステムではコンテンツ入れ替えなどの管理が面倒でした。配信内容も紙ベースのパンフレットとほぼ同じで、動画も使えましたがシームレスではありませんでした」(松木氏)
その経験を踏まえて、今回選んだのが「Adobe Digital Publishing Suite(DPS)」「InDesign」「Illustrator」などのAdobe製品でコンテンツを制作し、iOSとAndroid端末のアプリを通じて配信するシステムだ。これを使ったのが、ビジどこである。ユーザーは自分の端末にApp StoreやGoogle Playからビジどこアプリをダウンロードし、そのアプリ内で望むコンテンツをダウンロードして閲覧する。
DPSにより、単純なプレゼンテーション資料のコンテンツだけでなく、動きのある双方向性のある内容を実現でき、動画もシームレスに取り込めるようになった。そこで、導入と同時にコンテンツ制作フローも改め、ほぼ同じフローで紙媒体パンフとスマートデバイス向けコンテンツを作り分けて配信するようにしている。
さらに、同じDPSを使い、社員専用の別アプリも用意しており、より商談向けのコンテンツを配信している。新商材についても事前リークのリスクを抑えながら、発表当日に間違いなく配信できるようになった。
営業の品質を均一化
動画を取り入れることで説得力が高まるのはもちろん、営業の品質均一化にもつながっているという。商材の数は膨大だが、動画を取り入れることで該当する商材を理解していなくても必要な情報を顧客に提示できるからだ。ちなみに動画は、商談の流れを途切れさせないよう1分30秒程度の短いものを中心にし、長くとも3分以内に抑えている。
「わたしが講演する際に、同時に資料をビジどこでネット配信しています。講演でビジどこアプリを紹介をしたところ、次のスピーカーが話し始めても、なおタブレットでわたしの講演資料を読んでいる人もいました。DPSのアプリはタブレット端末だけでなくスマートフォンでも利用できるので、普段スマートフォンしか持たない役員クラスの人間が、懇親会などの場で知り合った人たちに見せるなどといった使い方も見受けられます」(松木氏)
また、DPSではコンテンツ配信状況の解析もできる。どのパンフ、動画が閲覧されているか、どのタイミングでアクセスが増えたかなどを把握できる。紙で言えば発行部数に相当するが、それをより詳細に解析できる。