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物理学の方程式があればすべてをビッグデータ処理する必要はない--ウェザーニューズ山本CIO - (page 2)

吉澤亨史 山田竜司 (編集部)

2014-09-18 07:00

--船の航行状況などはどうやって把握するのか。

 船から1日に1回エンジンの回転数や気象情報などを記載したレポートをもらいます。センサで自動的にモニタリングしている船も何隻かあります。最近はリアルタイムでのセンシングが流行していて、1分ごとにデータが入ってきます。燃料の流量やエンジン回転数、トリム(船首喫水と船尾喫水の差)の状態、それに海流や海水温など周辺の環境情報なども含まれます。ただ、あまりデータが細かくても使い勝手が悪いというのもあります。

 リアルタイムセンシングは会社のポリシーが関わっており、導入するかどうかは会社次第であり、海会社と船のオーナーが違うケースも多くあります。機器を導入すると、VSAT船検(車検のようなもの)のときに届け出が必要であるなど、ランニングコストもかかるため、導入に神経質な会社が多いですね。

 ただ、流れとしては(船舶の)通信が限られた状態から広がってきている状況にはあります。特に外国の船会社は設備に先進的なところもあります。

 商業船は1日単位でコストがかかりますし、港湾での荷役作業に人手がかかる場合は人を手配する必要があります。スケジュールが遅れると人件費も余計にかかります。荷役作業を自動化できる積み荷ならインパクトも少ないし、港の設備やインフラにもよります。太平洋を渡るときに燃料を考慮したオプティマイゼーションをすると、1航海で5000万円違うこともあります。

独自モデルで海氷の動きを予測

--北極海ルートが注目されている。

 北極海ルートを使うことで、距離にしてアフリカ回り航路の半分、スエズ運河を経由する航路の3分の2になります。それだけに節約できる燃料費も相当なもので、3000万~5000万円のコスト削減になります。

 ただ、スエズ運河を通るために通行料がかかるように、北極海回りもロシアに通行料を払う必要があります。氷が接岸している海は、公海であっても大陸の領土の延長と見なすことになっていて、そのため北極海はロシアの領有権が及ぶため通行料がかかりますし、船にはロシアの国内法が適用されます。

 航行する船には必ずアイスパイロット(氷に関する水先案内人)を乗せるという決まりがありますし、砕氷船のエスコートをつける必要があります。難所が何カ所かあるので、エスコートがないと通れないのです。たとえ氷がなくても、アイスパイロットや砕氷船をつけなければなりません。

 こういったレギュレーションはありますが、北極海ルートの利用自体は進んでいます。トータルで見るとメリットは十分に見込まれるためです。

 北極海ルートを通過する技術ですが、一番のネックは海氷です。最悪の場合は海氷に閉じ込められるリスクがあり、砕氷船のエスコートが必要です。閉じ込められるだけなら大きなインパクトにはなりませんが、荷物を運べなくなってしまいます。これは顧客の信頼や積み荷の価値を失い、大きな損失になる可能性があります。それを避けるためには、氷の今の状況とこれから先の状況を把握する必要があります。

 通常、北極海ルートの航行には10日間くらいかかるので、その間の見通しがちゃんと立って、これならいけるという保証が出発前に欲しい。ウェザーニューズでは、海氷予測のために気象の数値だけでなく、海氷の予測モデルを独自に動かして解析、予測します。そのためには現時点での初期値が必要になりますので、衛星や航行している船舶などの新たな情報を付加し、現状を見極めた上で、10日間の予測を出しています。それを元に航海計画を作成し、海氷に遭遇するリスクを含めて掘り下げています。

 北極海ルートは2013年に70隻が通っており、ウェザーニューズはそのうち10航海くらいをサポートしました。今はロシアの地元の船が多くなっています。ロシア市場は商習慣の違いなどから、まだうまくアプローチできておらず、市場を開いていこうとしているところです。現時点で北極海に関してサービスを提供しているのは北欧と、日本以外のアジアが中心です。


北極海ルート

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