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物理学の方程式があればすべてをビッグデータ処理する必要はない--ウェザーニューズ山本CIO - (page 3)

吉澤亨史 山田竜司 (編集部)

2014-09-18 07:00

--海氷の予測システムとは。

 海氷予測のためには、氷の発達と衰退といった物理的なメカニズムのほかに、海流や風に流されるといった移動のメカニズムも関わってきます。そうすると、単純に海氷の物理だけでなく、海流や気象の影響も受けます。そこで海流モデルや気象モデルのアウトプットを組み合わせて、海氷モデルを動かしていきます。

 すべて基本的な物理の方程式がありますので、それに基づいて数値モデル化して、全休を細かいグリッドに分けて次の時間を予測していく「時間発展方程式」という物理式を解くやり方です。これは気象も海流も氷も一緒です。気象と海流はお互いに影響し合います。風が吹くと波が立って、波が立つことで抵抗が増えて風が遅くなるなどの相互作用があります。同様に氷の場合も相互作用があり、これをソフトウェアで表現しています。

 すべてが自社製というわけではありませんが、公開されている“気候予測数値モデル(Weather Research and Forecasting:WRF)”を活用することもありますし、気象庁やアメリカのナショナルサービスが提供している数値予測の結果をアウトプットとアンサンブルするという手法も採っています。アンサンブルするためにはいろいろなパラメータで複数のモデルを走らせなければなりません。すべて自前ではコストがかかりすぎてしまうので、公開されている情報を活用しています。

気象情報の精度向上は1~2%

--気象情報のオープンデータ化が進んでいるが影響は。

 気象情報のオープンデータ化により、専門家を置いて独自の解析をサービスのベースにするという企業でなくても、公開されているAPIとデータを使えば同じようなサービスができるため、そのような人々が参入してくる可能性はあるでしょう。そのため、各産業界に気象情報がどのくらいのインパクトをどこに与えるかを、つかんでいることがより重要になると思います。気象情報のデータソースは何でもいいのです。

 実際のところ、気象の世界は努力しても、精度は1~2%しか良くなりません。それよりも、気象によるビジネスへの影響の方が大きいわけです。天気の状況に対応することで、損失を30%防げるといった話の方が効果的です。気象情報の細かい精度よりも、いかに有効に使うかというところがこれからのビジネスのポイントになると思います。公開されているAPIとデータを上手に活用したら、ウェザーニューズ以上のサービスを提供できる可能性はあると考えており、新サービス開発の必要性を感じています。

--気象解析システムとは。

 観測する仕掛けがあって、その観測データを収集する仕掛けがあります。それ以外に、外部機関から提供される気象情報も集めています。それらをさまざまな視点で見ていきます。例えば数値予測の場合は、変なデータが入らないようにデータをスクリーニングして、取り込み現状を解析、そこに予測に入れて未来予測を出します。そこで出てくる結果は数値上のものなので、現実の世の中に合うように補正をかけます。

 予測モデルは、独自、一般、公的機関の観測データを集めて独自に作成しています。他機関の予測モデルをアンサンブルしていきながら知見も入れて、予測としてサービスに反映させています。これらはオートマチックな仕組みができていますので、人による手作業はほとんどありません。複数の部署が携わっていますが、一気通貫で流せます。

 一方、人の感性も重視しています。たとえば観測にしても、観測機では検出できない雨も、人間なら検出できます。それがサポーター観測情報です。気象庁のアメダスは1時間に1ミリ以上降らないと反応しません。しかし、雨の降り出しなどはサポーターの方が観測できます。それを今後の短時間の予測に反映しているわけです。降り始めてからでは遅いので、人間が重要になるのです。

 人間の経験則や知見はできるだけ生かしたいと思っています。それで2010年くらいからAIを取り入れた予測も始めました。観測データや通知予報では出てこないような、いろいろな経験に基づいたものを盛り込んでいます。また、新人でもベテランと同じような答えを出せるようにすることもAIに力を入れている理由のひとつです。

 ゲリラ雷雨などでは、人の感覚でないと感じられないものもあると思います。それを取り込める形のAIにしていることが特徴です。ゲリラ雷雨や短時間の大雪、季節などに合わせていろいろなAIシステムを動かします。作るのは大変なのですが、サービスのポイントがそこにあります。

 予測システムでは「ファジー推論」なども使っています。データをファジー化して、その中で推論をして出てきたデータを普通の数値に落としたりしています。それが面の情報だったら観測点ごとに計算をします。もともとセンサ情報は非常に多く、気象観測データや携帯電話の中継局に設置している気象センサ、気温、気圧、湿度、日照、雨量などから1分ごとにデータが入ってきます。

 ただ、データが入りすぎるという問題もあります。台風の動きを気圧の面で見たりするレーダーも、小型のものが80カ所くらいあります。それをどううまく使うか、使い方が確立していません。また、気象現象ごとに見るポイントも違います。センサごとにデータを見るのではなく、ある現象が起きたときにこれとこれのセンサの情報を見て、ファジーに当てはめて可能性の高い値を引き出すというようなことをやっています。

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