三国大洋のスクラップブック

「儲からない」Apple Payをあえて出してきたアップルの面白さ - (page 2)

三国大洋

2014-09-29 07:30

 9月はじめ、ちょうど新型iPhoneにNFCチップが積まれるのではないかという噂が盛り上がっていた頃に明らかになったHome Depotの顧客情報流出――ハッカーがPOS端末にマルウェアを仕込んで、クレジットカード情報をごっそり盗み出した――については、先週「流出したカード情報の件数が約5600万件で、Targetのそれ(約4000万件)を超えて過去最悪の事故となった」といった話が報じられていた。

 また、いままでのところの被害総額は、盗まれたカード情報を使って不正に行われた買い物の金額についても推定30億ドルといった数字も目にした。「Apple Payの仕組みがあったら、そうした事故も起こらず、被害にもあわずに済んだ」となれば、小売り、サービス事業者側でも新しいタイプのPOS端末(NFC技術にも対応し、同時にEMV(Europay, MasterCard、Visaの3社の頭文字を取った決済の規格)に準拠するもの)の導入に前向きにならざるを得ないのではないか……。そんな考えも頭に浮かんだ。

 なおFT記事には、いまのところこうしたカード詐欺の損害を負担しているVisaやMasterCard(両社がなんらかの保険をかけているかどうかまでは記されていない)が、来年からは小売業者側に負担を求めることになっている。具体的には、ICチップ入りのカード(サインの代わりにPIN=暗証番号を使って認証するタイプ)とそれに対応する新型POS端末で処理した決済取引でなければ、詐欺にあっても補償しない、ということになるらしい。

 だとすると、Apple Payがあろうがなかろうが小売事業者としてはPOS端末の入れ替えを検討せざるを得なくなる(そうでなければリスクを覚悟して旧型端末を使い続けるしかない)はずで、逆にAppleのほうがそうした流れにうまく乗ろうとしている、という捉え方も可能かもしれない。

 またWSJが以前の記事で、「別にセキュリティ分野に足を突っ込みたいわけではない。自分たちがクレジットカード情報を管理しなくてもいいように早くしたい」という小売業者の声を伝えていたが、Apple Payのスキームはこうした小売業者の希望を叶えるものでもある。

 さらに「おサイフケータイ」のようなものに馴染みのなかった何億人かの消費者にとっては便利な支払いの手段だ。いとも簡単に代金を支払え、カード類よりも(データ漏れなどの)心配が少なく、たとえ「財布なし」で外出しても困らない道具である点は、Tim CookやEddy Cueがしきりと強調していた通り。

 そういえば、CookはBusinessweekとのインタビューのなかで、財布の役割について「自分が若い頃は、家族や友人の写真を持ち歩くためのものだった(略)いまでは写真もスマートフォンで携帯するのが当たり前になっている。まだまだそうなっていないカード類も、そうなってしかるべき」云々と発言していた。ちょっと変わったものの捉え方をする人のようだ。


[Apple Pay hands-on - The Verge]
(Tne Verge編集長のNeily Patelによる実演のビデオ。後半にタクシーサービスUberの統合ぶりなども出ていて、たしかに便利そう)

 FT.com記事には、10年前にあったiTunes(Music Store)を引き合いに出しながら、Appleに「軒下を貸す」ことにしたカード決済事業者や金融機関側がなぜ母屋を取られる可能性もあるApple Payを受け入れることにしたのか、といった点についてわりと詳しい話が書かれてある。

 この説明によると、Apple Payのスキームではユーザー(消費者側)の手にするツールがICチップ入りのクレジットカードの代わりにiPhoneになるだけで、お金の流れ自体はこれまでと変わらない(既存の事業者が中抜きされるおそれがない)、ユーザー同士が直接お金(という情報)をやりとりするような仕組みもApple Payには含まれていないので、抵抗感が少ないのだそうだ(確かに、iPhone同士を近づけるだけでお金のやりとりができる=どこかのサーバーなど介さずに決済できる仕組みみたいなものがあれば、それはそれで便利そうだが……)

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