Googleの検索結果に対して削除を求めていた仮処分申請で、東京地裁が一部の削除を命じる決定をした。この動き、プライバシー侵害問題について考える契機にすべきである。
東京地裁が検索結果削除へ異例の司法判断
Googleの検索サイトで自分の名前を検索すると、過去に犯罪行為に関わっていたかのような検索結果が表示されるのはプライバシー侵害だとして、日本人男性が米Googleに検索結果の削除を求めていた仮処分申請で、東京地裁が10月9日、検索結果の一部を削除するよう命じる決定をした。
削除対象は、男性が求めた237件のうち122件。検索サイトに表示される検索結果自体の削除を命じる司法判断は異例のことだ。男性は6月、犯罪を連想させる検索結果が出ることで「現在の生活が脅かされている」として、削除を求める仮処分を申し立てた。これに対し、Google側は「検索サービスの提供者には検索結果の削除義務はない」との立場を主張していた。
こうした中で、東京地裁は今回の決定において、Googleの検索サイトに表示される記述が「素行が著しく不適切な人物との印象を与える」と指摘。その上で「表題と記述の一部自体が男性の人格権を侵害しており、検索サイト側に削除義務がある」とした。この決定を受け、Googleでは削除の検討に入っており、すでに一部は削除されているようだ。
今回の動きの背景には、5月に欧州連合(EU)司法裁判所がGoogleの責任を認め、不適切な個人情報の検索結果を削除するよう命じた判決を下したことがある。この判決は、いわゆる「忘れられる権利」が認められたとして、世界的な注目を集めた。今回の東京地裁の判断は、そうした流れに続くものといえそうだ。
ITベンダーはプライバシー保護に注力すべし
今回の一件を、情報社会におけるプライバシー侵害問題について改めて考える契機とすべきである。セキュリティ分野に詳しい有識者に今回の一件の感想を聞いたところ、「今後、ITの進展による利便性とプライバシー保護との兼ね合いが、ますます難しくなってくるだろう」と語った。
例えば今回の矢面に立った検索サイトは、インターネットを効率的に利用する上で非常に重要な役割を果たしており、今や情報社会の基盤をなす存在となっている。だが、情報の収集や仕分けは機械的に自動化されており、プライバシー侵害に対して徹底した対策や制度が設けられているとはいえない。これは検索サイトに限らず、インターネットそのものの大きな課題である。
インターネット上のプライバシー侵害問題に対処していくためには、ITの仕組みだけでなく、法制度の整備や倫理教育の徹底を図っていかなければならない。とりわけITの仕組みにおいては、プライバシーを保護するどころか、侵害を増長させかねないだけに、ITベンダーの一層の知恵が求められる。
言うまでもなく、プライバシー侵害は人間の尊厳を傷つけるものである。ITがそれを増長させるものであっては決してならない。ではどうすればよいか。知恵を絞るしかない。今回の一件は、そんなITベンダーの姿勢が強く求められることを示唆しているのではなかろうか。