エンタープライズITは近年、大きな変革を遂げている。その背景には、エンドユーザーと事業部門の権限という、興味深く、時には相反する組み合わせがある。さらに、情報セキュリティの強化とIT部門の高い即応性への需要が高まっているという要因もある。こうした要因に加えて、ITを広告制作会社から購入する最高マーケティング責任者(CMO)など、従来とは異なるテクノロジの消費者やサプライヤーが力を得てきていることもあり、IT環境はいまだに標準化を模索しているところだ。不況後にテクノロジ支出が増加し、モバイルやクラウドのようなテクノロジが新興技術から必須の技術へと変わるにつれて、標準的なIT環境とはどのようなものになるのだろうか。
バックオフィスはなくならない
大規模で複雑なシステムによって世界中の企業の大部分を動かしている、OracleやSAPなどのエンタープライズIT大手企業は終焉を迎える、と予測している人もいる。しかし、こうした予測の多くは、これまでの世代の、メインフレームをベースとしたエンタープライズシステムに長年にわたって投資されてきたことや、それらをめぐる歴史を無視している。手短に言えば、1990年代に導入されたERPシステムが今でも根強く使用されているように、存続期間が10年未満とされているシステムのなかには、30~40年後もまだ使用されているものが数え切れないほどあるということだ。
最も優れた新しいテクノロジでも、数十年かけて成長、進化してきたシステムに容易に取って代わることはできない。今進化しているのは、こうしたシステムからデータを抽出する新しい方法や、システムとのインタラクションに関する新しい手段だ。これまでであれば、Oracleなどのシステムは、特別なトレーニングと数カ月の経験がなければ生産的な作業ができなかった。しかし、簡素化したインターフェースによって、インタラクションが少ない新しいモバイルフロントエンドが登場したことで、新規ユーザーでも、スマートフォンやタブレットを用意すればすぐに生産的な作業ができるようになった。同様に、長年にわたってエンタープライズ向けSAPシステムを通じて実行されてきた発注処理も、製品や販売のライフサイクルを予測できる分析モデルを適用すれば、価値あるものになる。
最高情報責任者(CIO)は勢いを回復する
最高情報責任者(CIO)は、気の休まる暇がないように思える。一方では、ユーザーのあらゆる気まぐれや思いつきに対応し、さまよい込んでくるあらゆるテクノロジを取り入れつつ、他方では同時にCMOのような、ITに関する新たな陰の実力者に権力を譲ることが求められている。2020年に近づくにつれて、こうした権力争いの多くは次第に解決し、CIOは概して2つのタイプに分かれるだろう。