もうひとつ、別の意味での車内LANについてもご紹介したい。
自動車の走行のための、あるいは走行時のさまざまなサポートをするための情報通信をつかさどる車内ネットワークである。
ご存知の方も多いと思うが、自動車の中にはたくさんの配線(ワイヤハーネス)が存在する。また、このハーネスがつないでいるものは、ECU(Engine Control Unit)などのコンピュータであり、カーナビなどのアクセサリであり、それらに電源を供給するバッテリである。
現代のクルマは、エンジンやステアリング、ブレーキといった走行に欠かせないパーツを電子制御するだけでなく、エアバッグのためのクラッシュセンサや、ADASのためのカメラといった安全装置、さらにカーナビやAV機器など多くの電子機器を搭載している。一般的な大衆車で40~60のECU、高級車では100を超えるECUが搭載されているといわれている。
これらの電子機器を接続するために、多くのハーネスが用いられており、その重量とコストが自動車の開発において無視し得ないものになっている。
ワイヤハーネスの総重量は、標準的なセダンで30キログラムにもなると言われており、燃費を向上させるために血眼の努力をしている自動車会社にとって、このワイヤハーネスの軽量化は大きな課題なのである。
こういった車内のさまざまな通信に関する規格も存在する。例えばBoschが中心となって標準化したCAN(Controller Area Network)や、BMWやフリースケールセミコンダクターなどが中心となって立ち上げたFlexRay ConsortiumによるFlexRayが有名な車内LAN規格である。
しかしながら、ADASで処理されるデータ量の増加と求められる即時性により、CANやFlexRayの通信速度では対応しきれなくなりつつある。CANの速度は~500kbps、FlexRayの速度は~10Mbpsなのだ。
緊急時の自動ブレーキや、前車自動追従機能、さらに駐車場にクルマを入れる際に使うアラウンドビューモニターなど、画像処理を伴う情報の処理・通信には、10Mbpsでは足りない。
そこで注目されているのがイーサネットの利用である。イーサネットであれば100Mbps/1Gbpsの速度に対応できることや、既に家庭用やオフィス用として広く普及しており、コストメリットも享受できるという利点がある。
イーサネットを車内LANに用いることで、コストにして80%、重量にして30%低減できるという試算もある。
また、現時点ではUTP(Unshielded Twisted Pair: より対線)であるが、さらなる高速化を視野に、光ファイバの利用も検討されている。
とはいえ、自動車の中にはさまざまなノイズがあることや、熱や光(紫外線)などへの耐候性、さらに故障や事故に対するフェイルセーフなど、本格的にイーサネットが普及するまでには、まだしばらくの時間を要するのではないだろうか。