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大きな期待と見えない答え--「Apple Watch」は何を変えられるのか

三国大洋 2015年03月15日 08時00分

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 Appleの話題の新製品「Apple Watch」を巡る英語メディアの報道ぶりがいまひとつパッとしない。パッとしないというのは、特に印象に残るものがない、ということだが、そうなった理由を推測してみると、ざっくりと次のようになる。

経済系媒体:競争としての面白味がない

 これはApple側で経営トップがSteve JobsからTim Cookに変わったこと、今のAppleが押しも押される「世界一儲け(と時価総額)が大きい」優良企業になっていることと関係していると思われる。

 Appleが過去に新ジャンルの製品を投入した際には、かならず新製品が立ち向かう“仮想敵”を持ち出していた。ところが今回とそれに先立つ昨年秋の発表では、そうした仮想敵が示されなかった。

 「iPhone」登場時に携帯通信端末を引き合いに出されたNokiaやBlackberryにしても、「iPad」登場前に一時ちょっとしたブームになっていたネットブック(廉価版ノートPC)のメーカー各社にしても、それぞれそれなりに勢いがあったから、相撲に例えて言えば“関脇もしくは大関のAppleが、番付で同格もしくは上の関取に挑戦する”ような面白さがあった。

 そんなはっきりしたライバルがいたからこそ、「iPhoneなぞヒットするわけがない」云々という例のSteve Ballmerのコメントも取れた。それに比べると、Apple Watchではまだ「誰が本当に同じ土俵に上がっているのか」という点がいまひとつはっきりしない。

 Apple Watchに攻め込まれそうな時計業界に、MicrosoftやGoogle、Samsungに匹敵するような強豪力士がいるかどうかもよくわからない。そのため、各社の報道は「未知の分野、潜在ニーズがどれほどあるかもよく分からない領域に乗り込むAppleの勝算はどうか」といったところに話が終始しているといった印象を受ける。

 販売台数予想については、Strategy Analyticsの年間1540万台と、Katy HubertというMorgan Stanleyのアナリストの初年度最高で3000万台という数字が引用されているのをよく見かける。またApple Insiderがまとめている各社アナリストの予想では「1600万台」(UBS)、「1800万台」(Evercore ISI)、「1900万台」(BMO Capital Markets)などといったものもある。

 販売金額については、BMOが約80億ドル(平均単価420ドル×1900万台)、Cowen and CompanyがQ2~3の2四半期だけで約59億ドル(平均単価450ドル×1300万台)などと予想しているという。それだけを取り出してみると大した数字だが、Appleの2015年度第1四半期(2014年10~12月)が746億ドル、2014年度通年(2013年10月~2014年9月)の売り上げが1828億ドルであったことを思い出すと、それほど大きな影響も及ぼさないようにも感じられてしまう。

 スマートウォッチ分野については、「2014年のAndroid Wear端末の販売台数が各社合計でも72万台にとどまった」「それ以外のものをあわせても460万台だった」というCanalysの調査結果が2月に報じられていた。

 メーカー別で販売台数が最も多いPebbleにしても、2014年の終わりに「累計100万台を超えたところ」ということで、Apple Watchとは文字通り「桁違い」という感じがする。

 仮にApple Watchが出足でつまずいたとしても、今のAppleの体力があれば成功するまでいくらでも試行錯誤を繰り返すことができそうだし、結局ダメとなった場合にも、代わりに競合他社からヒット製品が出てくる可能性もさほど期待できない。そんな状況がApple Watch関連のニュースをつまらなくしているのかもしれない。

 Bloombergは、Apple Watchの発表直後に「Swatchの共同発明者が『Apple Watchがヒットしてスイスの時計業界に氷河期が来る』といった」、それに対して現在のSwatchの最高経営責任者(CEO)が「Apple Watchのデザインはスマートウォッチとしては上出来だが、時計としては大したものではない」と口にしたといった話も出ている(前者の記事には「スイスの時計業界の売上規模は380億ドル」「輸出台数は2860万台」といった数字も出ている)

 BloombergやReutersには、Appleにとって気になる中国でのApple Watch販売について記した記事も出ている。Bloombergには「大ヒット間違いなし」とする上海在住の米国人コンサルタントの見方が出ている。Reutersには「キラーアプリがまだないため、厳しい出足になるのでは」といった見方が街の声とともに引用されていたりする。

 両方で触れられているのが、習近平政権が進めてきている綱紀粛正・贈収賄の禁止を促す動き(Austerity Campaign)との兼ね合い――2013年には、たくさんの高級時計を所有する(自慢する?)地方の役人の写真がオンラインで出回り、14年の禁固刑に処せられた例もあったという。

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