米Oracleが先ごろ、クラウドサービスの拡充に向け、米Amazon Web Services(AWS)に対抗するIaaSの新サービスを打ち出した。得意分野のPaaSでIaaSを包含する戦略を展開しようとしていた同社が、なぜIaaSでAWSと真っ向勝負に出たのか。
AWSと真っ向勝負を宣言
会見に臨む日本オラクルの杉原博茂取締役 代表執行役社長兼CEO
「オラクルはクラウドサービスにおいて、これまでSaaSの品揃えに注力してきたが、ここにきてPaaS/IaaSも多様な顧客ニーズに応える品揃えが整った。クラウドサービスを構成する3つのレイヤすべてで、これだけ充実した品揃えを行っているのはオラクルだけだ」
日本オラクルの杉原博茂社長は6月30日、同社が開いた事業戦略説明会で図を示しながらこう胸を張った。PaaS/IaaSのサービスラインアップを示したこの図は、米国本社が6月22日に発表したものである。
杉原氏が会見で説明した日本オラクルにおける2016年度(2016年5月期)の事業戦略については関連記事を参照いただくとして、ここでは米国本社が発表したIaaSの大幅強化に注目したい。
PaaS/IaaSのサービスラインアップ
なぜ、IaaSの大幅強化に注目するかといえば、同社はこれまでクラウドサービスにおいて、得意分野のPaaSでIaaSを包含する戦略を展開しようとしていたからだ。それが一転、IaaSで先行するAWSと真っ向から勝負する姿勢を鮮明に打ち出した。
米国本社の発表会見では、Larry Ellison会長兼最高技術責任者(CTO)が説明に立ち、24種類に及ぶPaaS/IaaSの新サービスを打ち出すとともに、「IaaSにおける最大の競合はAWSだ」と明言したうえで、3つのレイヤにおける豊富な品揃えを最大の強みとして、クラウドサービス市場の覇権獲得に乗り出す姿勢を印象付けた。
もともとクラウドサービスの構造からすれば、SaaS/PaaSはIaaSを包含する形になるはずだ。ならばSaaS/PaaSで高いシェアを獲得することに専念すればよいのではないか。なのに、なぜOracleはIaaSにも注力するのか。これが筆者の率直な疑問である。そこで、この疑問を日本オラクルの会見終了後、杉原氏と、日本でIaaSも受け持つクラウド・テクノロジー事業統括PaaS事業推進室の竹爪慎治室長にぶつけてみた。
「垂直統合型ビジネスモデル」への強いこだわり
杉原氏の回答は次のようなものだった。
「SaaS/PaaSがIaaSを包含するのはその通り。ただ、これからクラウドサービス市場で圧倒的な強さを示していくためには、IaaSでもトップを目指さなければいけないというのがオラクルの考え方だ」
ただ、同氏によると、今回のタイミングでPaaS/IaaSの拡充を打ち出したのは、米国本社が6月17日に発表した2015年度第4四半期(2015年3~5月)決算が予想を下回ったことも要因の1つになっているという。拡充の計画は以前から進められていたと見られるが、予想を下回ったことによる失望感を払拭するために、新サービスを打ち出す必要があったというわけだ。
また、竹爪氏は次のような見解を示した。
「オラクルの強みがSaaS/PaaSにあることは変わりないが、クラウドサービスにおいて垂直統合型ビジネスを盤石な形で推進していくためには、IaaSでも競争力を保持してスキのないソリューションを提供できるようにしておく必要がある」
杉原氏と竹爪氏の話を聞いて筆者が感じたのは、オラクルがかねて進めてきた「垂直統合型ビジネスモデル」への強いこだわりだ。SaaS/PaaSで高いシェアを獲得することに専念しても、それは達成できるようにも思えるが、オラクルにとっては例えば顧客から「IaaSはAWSで」と指定されるケースが増えると形勢は不利になる。SaaS/PaaSを大きく広げていくためにも、顧客から「IaaSもオラクルで結構」と言われる環境を構築しておく必要がある。今回のIaaSの大幅強化は、そのための施策といえよう。
6月30日の日本オラクルの会見では、米国本社で発表されたPaaS/IaaSの新サービスにおける具体的な言及はなかった。どうやら7月中に正式な発表があるようだ。日本でどのようにIaaSを展開するのか、注目しておきたい。