店舗のオムニチャネル業務の改善:サプライチェーンを店舗に拡張する
店舗在庫のオンライン販売に成功した小売企業はオンライン販売で売上増を実現している。小売業界では、オンライン販売のオーダーに対して店舗から納品できる、特に店頭引取に対応できることが、ビジネスチャンスになっており、マルチチャネル化は企業と顧客の距離を縮めた。一方、ロジスティクスにとっては、短期間のうちに在庫を編成し、保管し、配送する業務プロセス変革が求められており、難しい局面を迎える結果となってしまった。
IDC の最近の調査では、小売企業の店舗在庫の正確性は 60~90%と報告されており、これはマルチチャネルからの消費者の需要に応える上で課題となっており、これからの店舗は、サプライチェーンの一部として、小さな物流センターのような機能を持ち、在庫管理レベルを上げて在庫精度を高める必要がある。
サプライチェーンには多数のステージが存在し、現在は、マルチチャネルフルフィルメントの時代に入っており、さらにこのステージが細分化されている。そのため、可視性と利用可能性における課題への対応はますます困難になっている。ただし、共通する課題を理解することは、改善への取り組みに役立つ。
例えば、店舗販売からオンライン販売まで行うアパレル小売り企業が、店舗在庫を実店舗での購買だけでなく、オンライン販売の在庫としてもとらえるには、在庫の可視化はもちろんのこと、リアルタイムでの注文ステータスを管理する必要がある。消費者が商品を買い物かごに入れ、試着するなど、リアルタイムで在庫状況が変化するため、店舗在庫をオンラインで販売するには、追加のサプライチェーン機能を導入する必要がでてくる。
そうすることで、自店舗での在庫欠品時に店舗ネットワーク上の在庫から充足させるだけでなく、倉庫やサプライヤーからの直送による店舗への商品入荷が可能となり、店舗が小さな物流センターのような機能を持つのである。
また、ASN(Advanced Shipping Notice:事前出荷明細送付)に対する入荷受入、定期的で頻繁な循環棚卸による棚卸減耗の監視、返品在庫の記録・管理、リアルタイムePOS データの照合・処理などは新たに必要となる店舗機能の一例である。もちろん、店舗の在庫精度が向上したらそれで終わりではなく、正確な在庫状況が得られて初めて、その効果を期待することができる。
このように、オムニチャネルに対応し消費者にとって利便性の高い購買体験を提供するには、マーケティング要素だけではない、バックエンドの基盤構築が必要不可欠である。販売チャネルが増加することで在庫管理やロジスティックの面でも複雑性も増していくだけでなく、店舗在庫がオンラインで販売されるようになると、オーダーのピッキングや引取準備の梱包作業など、これまでなかった店舗スタッフの業務が増加するのも事実である。
しかしながら、販売チャネルを新規開拓することなく、また在庫レベルを上げることなく売上増を達成できるとしたら、試みる価値があるのではないだろうか。

- 清水 博 マンハッタン・アソシエイツ日本・韓国代表
- 1983年から1989年まで本田技研工業。その後、Work Brain Inc.、米ミズーリ州ワシントン大学へ留学、アスペンテックジャパン、i2 Technologies、EXE Technology、Servigistics Asia inc.、PTCジャパンなどを経て2013年5月からマンハッタン・アソシエイツ株式会社。