組織で取り組むUI/UX

体験をデザインする--UI/UXに組織として取り組むために - (page 2)

綾塚祐二

2015-12-02 07:00

 前述のように「UI はシステムが適切に機能するかどうかを決める重要な要素」というのが一つ大きな理由であるが、これでは抽象的過ぎるだろう。以下、より具体的に幾つかの項目を挙げてみる。

(1)UIは(それ以外の部分の実質的な)性能を変える

 端的に分かりやすいのは、現在は東大の教授も務められているインダストリアルデザイナーの山中俊治氏の携わられた自動改札機の例である。山中氏の著書やブログ、各種のウェブの記事などでも詳しく紹介されているのでご存知の方も多いだろう。

 現在、日本の鉄道の改札口で多数使われているICカード用の自動改札機のカードを近づける部分は、利用者が近づく方向から見て前方に傾いている。鉄道会社の開発した最初のプロトタイプにはこの傾きはなかった。そのプロトタイプで実験すると、利用者がゲートを通過しながらかざしたカードをきちんと読み取れる確率は実用に耐えないほど低かった。

 改善を依頼された山中氏がさまざまなデザインを試し、観察した結果、現在使われているあの傾きがよいことが分かった。読み取り装置自体の機能や性能は何ら変わっていないのに、読み取れる確率は格段に上がったのだ。

 まさにUIデザインが性能を変えた。このデザインなしには、自動改札機は適切に機能しなかったと言ってよいだろう。

(2)ユーザーのミスを防ぐのはUIの役目

 数年前に、役所から支給される療養費の通知書に、とんでもない金額が記載されてしまったという事件があった。「職員の入力ミス」が原因とされるが、その「ミス」というのは「金額の入力に際し、余った上の桁は0で埋める必要があるところ、それを忘れて入力した」というものである。

 確かに「ミス」には違いないが、これはユーザーにその責を負わせるべきではない。UIのデザインにより必然的に引き起こされたミスである。より詳細には、ユーザーに入力させる金額は余った上の桁0を埋めさせるのに、システムは足りない下の桁を0で自動的に埋めたという食い違いが事件の根本の原因である。

 UIとしては「足りない桁は適切に埋める(加えて、それで正しいかどうかを確認する)」「桁が足りないときはエラーを返す」などの必要がある。そもそも、余った桁を0で埋めて入力させる必然性はあるだろうかということも検討されねばならない。データベース上はその形にする必要があったとしても、ユーザーに入力させる、ユーザーに見せるときにその形である必然性はあるだろうか。

 こういったミスを誘発するデザインは、計算結果を間違えたり、データがきちんと保存されなかったりするのと同様の不具合であると認識すべきである。逆に、UIを適切にデザインすることで、ユーザーのミスを防いだり、ミスに気づきやすくしたりすることで、ユーザーに安心感を与えることもできる。

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