これまでにもユーザーインターフェース(User Interface:UI)や細かい粒度のユーザー体験(User eXperience:UX) 、大きな粒度のUXに関する違いや、それらを考慮したり設計したりする際に必要なスキルや知識の違いなどについて何度か述べてきた。今回も基本的には主題は同じだが、粒度の大きなUXと小さなUXを扱うチームや部署は別であるべきかどうかを軸にした視点から考察したい。
分けない必然性、分ける必然性
まずはおさらい的な話になるが、大きな粒度のUXの設計でも細かな粒度のUXの設計でも、最も根本的に求められるのは、観察力や、客観・主観を切り替えて洞察できる能力である。
細かな粒度のUXのほうが具体的な実装に関する知識や、人間の細かな特性に関する知識をより多く求められ、大きな粒度のUXはより広い視点や、さまざまな分野のより雑多な知識や経験を求められるという点は違いがある。
大きな粒度のUX設計は「非日常」
これらを扱うのは2つの全く別々の知識やスキル、能力というわけではないので、両方のスキルをさまざまな割合で持つ人たちがいる。どちらか一方に特化した人もいれば、両方こなせたり、ある程度中間的な専門性を持つ人もいる。そういう意味では、粒度の大きなUXと細かなUXを扱う人々や部署を明確に切り分ける必然性は低い。
一方で、多くの人にとって、粒度の大きなUXと細かなUXやUIは関連性の高いものというなんとなくの知識や感覚はあっても、設計プロセスは全く違うものと思われていることが多い。
画面設計などのUI設計であれば普通に実施されるプロセスと認識されているであろうが、大きな粒度のUX設計というと「人間中心設計」「ペルソナ」「カスタマージャーニー」など専門外の人々には耳慣れないであろう言葉が登場するなど、(今のところは)「特別なプロセス」と思われやすい。別の言葉でいうと「非日常」であろうか。
UI/UXの向上を推進する立場としては、これを特別ではない「日常」に持っていくのが目標であるが、初期段階ではこれらは明確に分けておき、粒度の大きなUXに関する部分は非日常性を感じられるようにしたほうが導入・推進しやすいということもあるかもしれない。
社内システムなどに関して「非日常的なものは関係ない」と反発される可能性が高い場合は、あえて切り分けず、UXの考慮は日常的なプロセスの一環であるということを最初から強調するのが適切な場合もありうる。いずれにしても、こうしたチームや部署を分けるか否かは明示的にせよ暗黙的にせよメッセージ性を持つので、組織全体の性格や事情なども鑑みて適切に判断したい。