Microsoftは、自動運転車が普及した暁には、ユーザーが自動車の中で「Office 365」を使ったり、電子メールに返信したり、ミーティングをスケジュールしたり、「PowerPoint」でプレゼンテーションを作成したりといった作業をするようになることを望んでいる。同社が目指しているのは、これらの車内での作業を、Microsoftのクラウドプラットフォーム「Azure」が裏側から支えるという仕組みだ。
この記事では、Microsoftの自動車市場戦略について紹介する。この戦略は、同社がモバイル市場やクラウド市場で展開する、マルチプラットフォームのアプリを中心としたアプローチとも符合するものになっている。
Microsoftは、自社のデバイスとサービスを自動車と結び付けようとしている。
提供:Microsoft
CES 2016でMicrosoftが行ったデモや発表は、同社の戦略的な取り組みを示している。Microsoftの自動車業界関連のパートナーシップでもっとも有名なのは、Fordと進めていた、いわゆるインフォテインメントを中心に展開されている「SYNC」プラットフォームだろう。SYNCは今では、Blackberryの「QNX」に取って代わられた。Appleには「CarPlay」があり、Googleは自動車でもAndroidを使っている。一般に自動車産業では、燃費や信頼性、デザインなどと同じくらい、車内での体験が重視されるようになるだろうと考えられている。また、Googleは自動運転車をテストしているところであり、Appleには車の販売を検討しているというわさがある。
自動車業界でソフトウェアの重要性が高まっている中、Microsoftはそこにチャンスを見いだしている。Microsoftの戦略の特徴は、必ずしも自動車の主要なOSの座を巡る乱戦に勝ち残ろうとしているわけではなく、車のドライビング体験を支え、強化することを重視しているということだ。つまり、Microsoftはエンタープライズ業界の企業としての強みを生かした戦いをしていると言える。もう1つのポイントは、Microsoftが自動車業界に対して中立的な立場を取っていることだろう。
Microsoftの事業開発担当エグゼクティブバイスプレジデントのPeggy Johnson氏は、あるインタビューの中で、同社は自動車業界での取り組みを拡大していると述べている。「Microsoftはクラウドを重視している。当社は自動車業界に何年も関わっており、クラウドの力を利用できるよう、取り組みを広げた。顧客がどこにいても、クラウドを利用できるようにしたい。われわれが取り組みを拡大させていることは、他の企業の戦略とは異なっている」と同氏は言う。
さらにJohnson氏は、Microsoftの自動車業界での役割は、むしろクラウド技術を通じて、技術の実現を助けることだと付け加えた。また同社は顧客データに関心がないため、自動車メーカーのよいパートナーになり得る。「当社の進めている取り組みを自動車業界に重ね合わせれば、みなデジタル空間への移行を課題としている。重要なのはユーザーと、ユーザーがどこにいても情報にアクセスできることだ。Microsoftは、その答えはクラウドへの接続にあると考えている」とJohnson氏は述べている。「Microsoftは顧客データを求めない。われわれの役目は技術を実現することだ。当社は、ユーザーに煩わしい思いをさせずに、自動車をネットワークの世界につなげることができる」