展望2020年のIT企業

広がる生体認証市場の可能性 - (page 2)

田中克己

2016-01-26 07:30

社会問題を大規模データで解決する

 30歳の久田氏は、高校時代から統計を学び、FX(外国為替証拠金取引)の自動売買システムを作ったりしたという。大学卒業は金融機関に入るが、「リーマンショックで、目指したトレーディング機能の職場がなくなった」のを契機に退社し、「大規模なデータを使って、社会問題を解決」するビジネスを考え始めた。

 13年2月に、その中で軌道に乗った人を識別する生体認証の事業化に向けてリキッドを設立。創業早々から生体認証の実証実験を重ねてきており、総務省の案件はその1つになる。

 リキッドの開発・販売はポスドクを含めた約20人(15年12月時点)の人員で取り組み、最近は生体認証のベースになる画像解析の技術をマーケティングにも応用する。デジタルサイネージで顔を解析し、好みの商品を表示したり、視聴者の観たい番組を自動的に編成、配信したりすることなどだ。

 「将来は、どこか1カ所で指紋登録するだけで、数多くの施設や場所の認証や決済に利用できるようにしたい」と、久田氏は財布もカードも持たずに買い物や飲食をし、電車に乗り、映画を見るといった“夢”の世界を語る。その実現に向けてのコンソーシアム立ち上げを計画。「金融機関や住宅設備メーカーなどと組めば、スマートシティとFinTechを組み合わせた新しい街の機能も考えられる」(久田氏)。

 その一環から金融機関が集める東京・大手町に事務所を15年の末に移転した。16年2月にはショールームを開設し、8月までにATMやPOS、ドアなど生体認証の活用をイメージしやすい展示にする計画。久田氏は「システムは入れてから改善を続けていることで、その満足に対する対価を支払ってもらうもの」と、ITサービス事業の新しいビジネスモデルを志向する。

田中 克己
IT産業ジャーナリスト
日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。

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