囲碁対局で世界最強レベルの棋士を下した米GoogleのAI(人工知能)プログラム「AlphaGo」。技術力の高さを知らしめたAIとそれを支えたクラウド基盤が、同社の企業向けビジネスに弾みをつける形になるか。
技術力の高さを知らしめたGoogleの囲碁AI
3月9日から15日にかけて韓国ソウル市内のホテルで行われていたAlphaGoと韓国のプロ棋士Lee Se-dol氏との囲碁対局5番勝負は、結局AlphaGoの4勝1敗で幕を閉じた。
これまでコンピュータと人間の対局では、1997年に米IBMのスーパーコンピュータ「Deep Blue」がチェスの世界王者を下したことなどが知られている。だが、チェスに比べて選択肢が桁違いに多い囲碁の世界では、コンピュータが人間のプロ棋士に勝つにはあと10年かかるだろうと、専門家の間で予測されていた。今回の結果はそうした見方を覆す歴史的な対局となった。
GoogleはかねてAI技術の研究開発に力を入れてきたが、今回の成果によって改めてその技術力の高さを知らしめた形となった。また、AlphaGoを支える同社のクラウド基盤に対する評価も高まった。
筆者が注目したいのは、Googleが今回の成果を企業向けビジネスにどのように生かしてくるかだ。それというのも、これからの企業向けITプラットフォームは「クラウド」と「AIを駆使したビッグデータ活用」が2大要素になると考えるからだ。
まずは個人向けか企業向けかにかかわらず、最先端のAI技術によって同社の中核である検索エンジンの強化が図られることは間違いないだろう。既存の検索エンジンを通して関連情報を提示するだけでなく、利用者のニーズを理解して予見し、アドバイスを行うといった具合だ。こうしたAI技術を駆使した検索エンジンは、幅広い分野で活用されるだろう。
CEOが「2016年はクラウドサービスに積極投資」と明言
GoogleのSundar Pichai氏(提供:Google)
一方、クラウドについては、同社の最高経営責任者(CEO)であるSundar Pichai氏が2月、同社が開いた決算会見で「2016年はクラウドサービスに積極的に投資し、(競合する)Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureとの機能的な差を埋めていく」と語っており、相当な意欲を示しているのが注目される。
AWS、Microsoft、Googleの3社はとりわけIaaSとPaaSを合わせたクラウド基盤の市場において、ここ数年にわたって激しい戦いを繰り広げている。中でも価格競争の凄まじさが目立っているが、Pichai氏の発言には「商品力そのもので引けをとらないようにしたい」との思いが滲み出ている。
ただ、商品力もさることながら、筆者が気になるのは、Google自体に企業向けビジネスの経験とノウハウの蓄積が乏しいように見受けられることだ。それもあってか、このところクラウドサービスへのニーズがパブリッククラウドだけでなくハイブリッドクラウドやホステッドプライベートクラウドなど多様化しつつある中で、Googleのクラウドサービスにおけるそうした面での柔軟性が今ひとつ見えてこないように感じる。
また、Googleの企業向けクラウドサービスは、グローバル市場でこそAWSやMicrosoftと三つ巴の戦いを繰り広げているが、日本市場での存在感は2社に比べて乏しい。これも柔軟性が見えてこない要因なのかもしれない。
とはいえ、先述したようにこれからの企業向けITプラットフォームは「クラウド」と「AIを駆使したビッグデータ活用」が2大要素になるとの筆者の見立てからいうと、AI技術に強みを持つGoogleが多くの企業をワクワクさせるような他にないサービスを提供してくるのではないかという期待感がある。
Googleは米国時間3月23、24日にサンフランシスコでユーザーカンファレンスを開催する予定だ。「クラウド」と「AIを駆使したビッグデータ活用」の2大要素について、新しい動きがある可能性が高い。大いに注目しておきたい。