日本マイクロソフトは3月22日、クラウド型統合基幹業務システム(ERP)の最新版「Microsoft Dynamics AX クラウド」の提供を始めた。財務会計や経理処理、生産管理作業指示、プロジェクト管理、店舗管理、在庫管理、営業マネージャーなどの機能を搭載している。
Microsoft Azureで稼働する。モノのインターネット(IoT)や人工知能(AI)への対応、クラウド型ビジネスインテリジェンス(BI)ツール「Microsoft Power BI」と接続することで最新分析結果をいつ、どこでも、どのデバイスからでもアクセス可能とするなどの機能を強化した。
「国内での販売戦略としては、業種、業態に特化したバーティカルソリューションを提供する。小売業、製造業、流通業に特化したソリューションがあり、特に組立製造、プロセス製造のソリューションには定評がある。ノウハウを持ったパートナー同士の協業による事業拡大、マシンラーニング(機械学習)やIoTなど新しいビジネスに対応するために戦略的ISV(独立系ソフトウェアベンダー)パートナーによるソリューション開発による販売などを進めていく」(日本マイクロソフト 執行役 Dynamicsビジネス統括本部長 岩下充志氏)
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日本マイクロソフト 執行役 Dynamicsビジネス統括本部長 岩下充志氏
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Microsoft Dynamics製品マーケティングディレクター Pepijn Richter氏
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日本マイクロソフト Dynamicsビジネス統括本部 Dynamics BGシニアプロダクトマネージャー 杉本奈緒子氏
ターゲットとなるのは中堅企業と大企業。グローバルで対応していること、導入や運用のコストを低減しながら、拡張性やセキュリティを確保していることなどをアピールし、顧客獲得を進める。財務会計など基本業務ソリューションは、すでに何らかのソリューションを導入している企業が多いものの、クラウドの特性を生かして海外進出する際の多拠点で利用する業務ソリューション需要、M&Aによる業務システム改変での重要などを狙い。徐々に国内での実績を増やすことで利用企業増加を目指す。
サードパーティーとデータ連携
Dynamics AXについて、「Microsoftが進めているトランスフォーメーションのプロダクティビティとビジネスプロセス、インテリジェントクラウド、Windows 10+デバイスという3つの戦略の中でプロダクティビティの部分とインテリジェントクラウドに大きく関係している。特に、今回AXの最新版が加わったことで、プロダクティビティとビジネスプロセスが完成形となった」(岩下氏)戦略商品だと説明する。
新版リリースによって、「前版から提供してきたビジネスロジックだが、今回はデザインも含め、Azureベースで全て一新した。本日付で日本をはじめとした137の国や地域と法制度に対応した。40言語、現地通貨で利用できるサービスの提供を開始している」(Microsoft Dynamicsプロダクトマーケティングディレクター Pepijn Richter氏)とクラウドネイティブなグローバル版としている。
グローバル対応となっているが、クラウドの特性を生かして各事業部門の業務に適用し、組織の変化に合わせた柔軟な拡張に対応できると説明。大企業で利用する場合、カスタムアプリとの連携やカスタマイズが必須となるため、カスタマイズしやすい階層構造を採用し、短期間での構築、継続的な更新などIT投資が短い時間で最大価値を生み出せる仕様と説明している。
ユーザーインターフェース(UI)については、Officeシリーズの使い慣れたUIを採用。「導入したものの、使われていないという失敗がない。先行導入企業では、いずれも大きな成功事例となっている」(Richter氏)
利用できる構築ツール「Dynamics Lifecycle Services(LCS)」は、Dynamics AXの管理ポータルであり、開発パートナーとの情報共有としても使用できる。自動デプロイ、業務プロセスのモデリング、ライセンスの試算、テレメトリー情報で監視、ナレッジベース、アップグレード分析、サポート情報、エンドユーザー管理、カスタマイズ開発の分析などの機能を利用できる。従来の構築方法に比べ、クラウドサービスによる構築の最適化が可能で、大幅に時間を短縮できるという。
会見には日本での早期導入ユーザーとして、Soup Stock TOKYOを展開するスープストックトーキョーの経営企画本部 情報システム部 副部長である佐藤一志氏が登壇した。早期導入ユーザーとしてDynamics AX導入を決定した決め手となったのが、サードパーティ製サービスとも連携が可能なAPIだったと説明した。
「前版を評価していたタイミングでお声がけ頂き、導入を決定した。導入を決めた要因となったのはGoogleやTwitter、FacebookなどサードパーティのサービスともAPIを通じてデータ連携できる点。現在試験稼働させているものは、来店者のデータをセンサで獲得し、TwitterやFacebookなど当社に対する評価、既存システム、POS(販売時点情報管理システム)などのデータから売り上げとの相関関係を分析するといった試みも進めている」(佐藤氏)
LCSについても、「検証環境が複数必要となったが、LCSがあれば簡単に環境を構築できる」と開発にメリットが大きいと話した。
今回からライセンスモデルが変更。「従来は永久ライセンスだったが、今回からはクラウドベースのサービスということで、月額のサブスクリプションモデルとして提供する。販売については、当社のクラウドパートナーであるCloud Solution Partner(CSP)から提供される」(日本マイクロソフト Dynamicsビジネス統括本部 Dynamics BG シニアプロダクトマネージャー 杉本奈緒子氏)
Dynamics AX 2012のライセンス販売については、これまで通り継続提供される。