ちなみに、テストツールは1つのプロジェクトだけの効果を見て費用対効果を見るべきではないと筆者は考えている。複数回実行するテストの2回目以降の人的ミス低減と工数減にも効果がある、という意味では、例えば組織変更対応などの運用保守において、その効果を評価できる。ソースコード自動解析ツールは、多くのプロジェクトで活用することで品質の安定化が見込めるし、スタブ機能(完成済みプログラム動作検証のための代替プログラム)提供も複数プロジェクトで効果を出すだろう。
当然、アジャイル型開発が進めば進むほど、スピードと精度が求められるようになるわけで、テストツールにお任せする領域は必然的に増えてくるだろう。
Wモデルとテストツールの活用は、単純に開発の効率化の実現にとどまらず、日本のようにエンジニアの価格が高く、かつユーザー企業の求める品質レベルが高い国においては、プロジェクトの進め方そのものに影響を与える新しいアプローチだ。人間の労力だけに頼るプロジェクト運営から脱却し、機動性と正確性の高いプロジェクトの実現に、私たちもチャレンジしていきたいと考えている。
日本人がインドのオフショアをうまく使えない理由
最後にオフショア活用についても触れておきたい。欧米の企業は、インドなどの低価格かつ高スキルのオフショアをうまく活用している。金融系の大規模システム導入においては、テストの工程のみをインドのリソースとテストツールを活用する別のSIベンダーに外だしする、というケースもみられるようになっている。
日本人と同スキル、同レベルの人財を半額以下の単価で調達できるのだが、日本ではその活用が進まない。その大きな理由に「言語の壁」がよく上げられるが、筆者はそれ以前に「品質管理」の考え方の違いが大きいと考えている。日本でインドの開発者を活用する場合、日本語でプログラム設計書を詳細に記述し、それを英語に翻訳する。また、コミュニケーションのギャップを解消するのに、ブリッジSEを置く。
欧米では、要件定義は自国内で実施するものの、設計の重要な部分をインド側に任せるケースが多い。彼らは、いきなり精度の高い詳細設計を行うのではなく、いったんインド側に作らせた実物をみながら、何度かのやり取りで精度を上げていく、というプロトタイピングのアプローチを許容するのだ。
結局、使う側がプロジェクトの成功、品質向上、そしてリスク低減に主眼をおいて、「何を自分でやり、何を外に出すか」「どれを人間でやり、どれをツールに投げるか」といった要素分解ができていなければ、インド人開発者であろうがテストツールであろうが、うまく使いこなすことはできない。
アジャイル型開発の必要性が高まり、AIの進化に伴ってソフトウェアの高度化が進む今、日本企業は、システム構築のあり方を根っこから見直す時期に来ているのではないだろうか。
- 小室貴史 株式会社シグマクシス P2(Program&Project) シェルパ ディレクター
- 外資系コンサルティングファームを経て2012年シグマクシスに入社。経営管理、管理会計分野を中心とした戦略構想立案、プロセス変革、組織変革のコンサルティングに強みを持つ。流通業、製造業、商社、SIベンダー等に対するパッケージシステム導入のプロジェクトマネージャー、大型システムプロジェクトのPMOリーダーの経験を多数有する。