米PTCは6月7日、自社のリブランドを明らかにした。「エンタープライズIoTソリューション」の提供をビジネスの核とし、ブランドロゴも刷新。「Creo」「Windchill」といった製品を中心に、製品ライフサイクル管理(PLM)や3次元CADなどのソフトウエアを主軸としてきたが、近年は、同社のIoT基盤である「ThingWorx」を中核に据え、既存製品と連携する戦略を打ち出している。
陰陽をモチーフにDigitalの「D」とPhysicalの「P」を融合させたデザインだという
「IoTは、デジタルとフィジカル(物理)を融合する革新的な技術だ。両者が融合し、新たな世界が誕生した。IoTはわれわれに大きなチャンスをもたらすと同時に、製品が提供する体験を大幅に拡張するものだ」
4000人超の聴衆を前にこう訴えるのは、米PTCでプレジデント兼最高経営責任者(CEO)を務めるJames E. Heppelmann氏だ。同社は6月6日から4日間の日程で、米国マサチューセッツ州ボストンにおいて、プライベートコンファレンス「LiveWorx 2016」を開催した。Heppelmann氏は7日のオープニング基調講演で、新ロゴを披露するとともに、「エンタープライズIoTカンパニー」への方向性を明確に打ち出した。
米PTCでプレジデント兼最高経営責任者(CEO)を務めるJames E. Heppelmann氏
近年、PTCはIoTやAR(augmented reality:拡張現実)関連の企業を矢継ぎ早に買収し、同分野での機能や製品ポートフォリオ拡張を進めてきた。2013年12月にIoTプラットフォームを提供するThingWorxを約1億1200万ドルで買収して以降、2014年8月に機械間通信(Machine to Machine:M2M)ソフトウエアを開発する米Axedaを1億7000万ドルで、2015年5月に機械学習による予測分析プラットフォームを有する米ColdLightを1億500万ドルで買収した。
さらに2015年10月には、米QUALCOMM子会社のVuforia事業部を6500万ドルで獲得。2016年1月には、産業オートメーション環境への通信接続機能を提供するソフトウエア開発を手掛ける米Kepwareも買収している。
「IoTプラットフォームを(PTC製品群の)中核に据えることで、既存製品の“DNA”はこれまでとは異なったものになる」と Heppelmann氏は語る。ThingWorxや、ARプラットフォームである「Vuforia」の要素技術を既存製品と融合させれば、今まで顧客に提供してきた“体験”をより拡張できるというわけだ。
特にARやVR(仮想現実)は、人間の動きを伴う体験を提供する。また、スマートグラスやタブレットからはビジュアル化された情報が得られるため、事象を効率的に認識できる利点もある。具体的には、Creoで作成した3次元CADデータを基にVuforiaでARコンテンツを作成し、米Microsoftのゴーグル型端末「HoloLens」で見れば、あたかも目の前に製品が存在するように製品の詳細を確認できる。
またCreoとVuforia、さらにIoT技術との連携で、リアルタイムで製品が稼働している状況を可視化することも可能だ。こうした技術を融合的に活用すれば、将来的には遠隔地にある製品の稼働状況を可視化し、メンテナンスすることも可能になる。
基調講演では「デジタルとフィジカルの融合」を具現化した顧客事例として、米Caterpillarや、米Flowserveが登壇した。世界大手の高速ディーゼルエンジンを提供する米Caterpillarは、移動式の発電装置を開発している。デモンストレーションでは、同日PTCが発表したAR開発プラットフォームである「Vuforia Studio Enterprise(開発コード名:ThingX)」を利用し、発電装置の稼働状況を可視化したり、部品交換の手順をAR上で説明したりする様子が紹介された。
米Caterpillarでは発電装置内部をVuforia Studio Enterpriseを使って稼働状況を可視化する取り組みを行っている
Vuforia Studio Enterpriseでデータを読み取りタブレットに表示させたところ
IoT普及の“突破口”は分析技術
Vuforia Studio Enterpriseは、業務で利用するARコンテンツを簡単に構築できる開発プラットフォームである。核となる技術はVuforiaとThingWorxで、ARデータとIoTデータ、さらに3次元CADデータを融合し、リアルタイムでデータの更新が可能なARコンテンツを作ることができる。現在、同製品は早期試用ユーザーのみに提供されており、正式な発売は2016年秋を予定しているという。
また、流体制御機器製造を手掛ける米Flowserveは、ポンプの稼働状況をVuforia Studio Enterpriseで可視化するとともに、機械学習機能を提供する「ThingWorx Analytics」を利用し、電力消費効率を最適化したり、故障予兆を検知したりするデモを披露した。
米Flowserveは自社のポンプ稼働分析にThingWorx Analyticsを利用していると説明した
ThingWorx Analyticsは、ColdLightの技術がベースとなっている製品である。登壇した米FlowserveでバイスプレジデントR&D担当を務めるEric van Gemeren氏は、「Flowserve製品の場合、事前に故障を回避できれば、現在のメンテナンスコストの80%が削減できる。(故障に伴う)ダウンタイムを削減することが、顧客対する付加価値の提供でもある。そのような状況において、IoTデータをリアルタイムで分析し、知見を得ることは、われわれのビジネスを大きく左右する」と語る。
Heppelmann氏も、「IoT普及の“突破口”となるのは、分析技術だ。IoTの生データは、いば“原油”であり、そのままでは使い物にならない。IoTの生データを価値ある情報に昇華させ、どのような用途にでも活用できるようにするためには、分析という“石油精製所”が必要になる」と力説する。
もう1つ基調講演で繰り返し紹介されたのが、「VuMark」である。これは、同社が独自開発した二次元コードで、Vuforiaの1機能として提供される。さまざまなデザインやロゴと一体化させて利用できるのが特徴だ。使い方は簡単で、Vuforiaアプリがインストールされたデバイスや対応のスマートグラスでVuMarkをスキャンすれば、関連情報がデバイスやスマートグラスに表示される。今回発表されたVuforia Studio EnterpriseではIoTデータとも連携が可能なため、リアルタイムで収集したデータも表示させることができる。
「VuMark」はさまざまなデザインが可能だ
今回の基調講演では、「デジタルとフィジカルの融合」で実現するビジネスの可能性が繰り返し説かれた。一年前のLiveWorxで同社は、フィジカルとデジタルが融合したコンセプト製品を披露している。Vuforiaを手に入れたことで、そのコンセプトが具現化した格好だ。
これまでPTCはPLMやSLMといった、企業のデジタル情報管理を支援する製品を提供してきた。そこにIoTやAR技術が融合することで、新しい価値の創出と変革をもたらすことができるというのがHeppelmann氏の主張である。一新されたロゴについて同氏は「フィジカルとデジタルの融合が、大きな価値をもたらすことを具現化したロゴだ」とコメントした。