しかし、ネットワーク接続が必須になり、写真や動画なども含む大量のデータも保存されるようになると、管理の手間は格段に上がり、バックアップを取るのも一苦労になってきた。さらに、パソコンとモバイル機器など、1人のユーザーが複数のデバイスを扱うのも普通になり、ネットワーク接続速度も上がると、「インターネット上にプライベートなデータを置くのは不安」というのを「利便性」が上回り(UX的にもよいネットワークストレージが登場したのがその瞬間であろうか)、どのデバイスからでも同じように自分のデータにアクセスするような使い方も普通になった。
管理という面では、会社組織などにおける各種サーバ(メールなど)も初期のころは各組織が自前で物理的に持っていることが多かった。
しかし、管理の手間やコストの増大により、クラウドサービスを使う場合が増えている。
クラウドサービスに限らず、十分な性能を持ったネットワークアクセスを前提にしたシステムは、保守管理だけでなく機能の改善や追加、更新なども手軽、 あるいは自動的に行われるので、ユーザーは、本来の目的を果たすためのサービスやシステムの利用に集中できる。
ところが、「自動的な更新」のせいで「今まで使っていたものがいきなり使えなくなる」というトラブルも起こる。最近、大きく世間を賑わせている事例を紹介するまでもないであろう。この問題は脆弱性への対応の面なども考えると、なかなか落とし所が難しい。まさに、「UX」という観点も考えつつ解決策を探さねばならない。
この先の計算機システム
この問題も、10年後、20年後には、「今から思うととても『使いづらい』が、当時は『計算機とはそういうもの』であった」と語られるのかもしれない。もちろん、現在のシステムにはこれ以外の課題もたくさんある。それらはUX的視点からはどう解決されるのがよいか、あるいはそれを解決するであろう技術はどういうUXをもたらすのか、などをぜひ考えていただきたい。
また、今回は計算機システムの歴史のいくつかの要素を駆け足で巡ったが、それぞれの時代の個々のシステムのUXだけでなく、新たな技術などによってそれが「どう変化したか」も注意して見ていただきたい。
- 綾塚 祐二
- 東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修了。ソニーコンピュータサイエンス研究所、トヨタIT開発センター、ISID オープンイノベーションラボを経て、現在、株式会社クレスコ、技術研究所副所長。HCI が専門で、GUI、実世界指向インターフェース、拡張現実感、写真を用いたコミュニケーションなどの研究を行ってきている。