ベトナムでビジネスをする

消費地ベトナムのF1層はどこで買い物をするのか - (page 2)

古川浩規(インフォクラスター)

2016-07-23 07:00

若い女性が集まる「学生市場」

「120」
学生市場の典型的なお店の1つ。ここではすべての衣料品が12万ドン(約600円)均一。画面中央の「120」は「12万ドン」の略

 ハノイの西部地区に「Cho Nha Xanh」という市場があります。すぐそばに大学があり学生がよく買い物に来ることから、「学生市場」という通称で呼ばれています。この市場では、数百メートル続く路地の両脇にぎっしりと小規模店が立ち並び、衣料品、靴、かばん、化粧品、スマートフォン向けアクセサリといった主に女性向けのアイテムが所狭しと売られています。ハノイでは、こうした市場で販売する廉価な製品を求めて陸路で中国国境近くや中国国内にまで買い付けに行くという話も耳にします。

小売店
並行する通りに数百軒はあろうかという小売店が立ち並び、35度を超える炎天下でもオシャレをしたい女性客が途切れることがない

 市場全体では、15万ドン(約750円)程度をボリュームゾーンとして、10万ドン(約500円)以下の目玉商品や30万ドン(約1500円)クラスの価格帯までがそろっています。これ以上の価格帯になると高級商業施設や専門店に行き、100万ドン(約5000円)クラスの製品を探すことになります。なお、ハノイでのサラリーマンの外食での昼食が4~5万ドン(約200~250円)、ハノイの法定最低賃金が350万ドン(約1万8000円)ということを考えると、特別に安い価格帯というわけではありません。

 ハノイでの所得はホーチミンの所得よりも若干低いようですし、都市の規模としてもホーチミンよりも小さいですが、それでも首都であり購買力はベトナム国内でも高い都市の1つです。しかし、そのようなハノイであっても、一般庶民の暮らしはこのようなものです。確かに金銭に余裕が出てきたベトナム人も増えてきましたが、見方を誤ると「銀座やデパートで買い物をする日本人」だけを見ていることにもなりかねません。

 またベトナムでは、「月収1000ドルを超えると中間所得層の仲間入り」と言われることもあります。女性は24~25歳が結婚適齢期とされ、結婚後にすぐに子供をもうけることを期待されることが多いため、おしゃれに費用をかけることができる女性はまだまだ限られているのかもしれません。

消費地として有望でも開拓は容易ではない

 今回は学生市場を例として挙げましたが、すでにベトナムにはありとあらゆるものが正規・非正規を問わずに入ってきています。これらが既存の販売ルートに乗りすでに売買されています。たいていの品物にはすでに「相場」が形成されており、その相場を知るために親しいベトナム人同士が日常会話で「相手が持っている見慣れぬものの値段を聞く」ことがあります。

 正規・非正規を問わず、さまざまな種類の製品が入ってきているがために「悪貨は良貨を駆逐する」の例えではありませんが、価格の面で正規品がコピー品に太刀打ちできないことがあります。衣料品に限らず、ベトナム人の普段の生活に関係する製品の売買は「相場はあっても定価がない」といってもよい状況にあるため、市場価格を見誤り、価格設定を誤ると「全く売れない」ということもあり得るのです。

 そのため、すでにベトナムに類似製品や競合製品が存在する場合には、ベトナムの調査会社などを活用して価格調査を十分に行う必要があるでしょう。近年、さまざまな民間の調査データも積みあがってきており、良いデータに巡り合うことも期待できます。

 また、まだ相場が形成されていない製品を持ち込むことも戦略の1つですが、ベトナム側のパートナー企業(多くは輸入元や卸企業)と緊密な情報交換を行い、ベトナム人の視点を常に忘れないようにする努力が求められます。

 成功体験のある企業にとってはなかなか難しい視点かもしれませんが、1社でも多くの日系企業がベトナムで成功することを祈念しています。

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古川 浩規
インフォクラスター
内閣府及び文部科学省で科学技術行政等に従事したのち、平成20年に株式会社インフォクラスター、平成22年にJapan Computer Software Co. Ltd.(ベトナム・ダナン市)を設立。情報セキュリティコンサルテーション、業務系システム構築、オフショア開発を手掛けるほか、日系企業のベトナム進出に際して情報システム構築や情報セキュリティ教育等を行っている。資格等:国立大学法人 電気通信大学 非常勤講師、日本セキュリティ・マネジメント学会 正会員、情報セキュリティアドミニストレータ、財団法人 日本・ベトナム文化交流協会 理事

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