このような事情を踏まえ、さまざまな標準化団体などは、米国のGPS、中国の「北斗衛星導航系統(BeiDou navigation satellite System:BDS)」、ロシアの「GLONASS(Global Navigation Satellite System)」などの全地球航法衛星システム(Global Navigation Satellite System:GNSS)、ZigBeeやBluetoothなどの近距離無線通信技術と携帯電話通信技術をどのように併用すれば、最高精度のタイミングと位置情報を提供できるか、再検討を進めている。
現在は、Bluetooth信号を複数のアンテナを使用し、それらの受信時間の差から送信機と角度を求めて位置を推定する“到来角(Angle of Arrival:AoA)"と送信リンクでの各アクセスポイントへの放射波の角度を求めて位置を推定する“放射角(Angle of Detection:AoD)"という2つによる解析、アクセスポイントの信号を使用してWi-Fiネットワークについて光の到達速度とアクセスポイントからの角度の両方を利用して位置を推定する“ToF(Time of Flight)”解析、セルラー基地局からの高周波(RF)経路をマッピングしてデバイスの位置を推定する“フィンガープリンティング”などの手法が用いられているが、超広帯域(Ultra Wide Band:UWB)シグナリングを使用した高精度な測位情報を提供できる技術も徐々に広がりつつある。
セルラーは独自の多様化の道を歩んでいる。最近まではマルチメディアアプリケーションのニーズに対応する高データレートにフォーカスしていたが、現在は屋内や屋外を問わずライセンス帯域で低消費電力センサ通信が可能な“狭帯域IoT(Narrow Band IoT:NB-IoT)”に重点を置いている。
さらに、IoTネットワークアーキテクチャ全体が見直されている。これらの異なるネットワークとスマートセンサを融合させるには、コストのかかる個別のゲートウェイ装置が必要であると考えられていたが、Bluetooth Low Energy(BLE)やWi-Fi、近距離無線通信(Near Field Communication:NFC)、セルラー通信機能と融合したセンサ搭載のスマートフォンで、多くのアプリケーションに十分対応できることが判明した。実装が適切であれば、信頼性の高いゲートウェイ装置に必要なセキュリティ機能の多くを持たせることも可能だ。
高精度なタイミングと位置情報を取得するための手法の多くはまだ研究開発途上だが、IIoT分野のビジネス機会は急速に拡大しており、このコンテキストデータのパラダイムを的確に推進する明確な動機付けとなっているため、設計者はそれらの手法を組み込む方法を迅速に、だが慎重に考える必要がある。
調査会社のMarketsandMarketsは、2015~2020年のIIoT市場の年平均成長率(CAGR)は8.03%、1510億ドルになると予測している。
同社の調査では、半導体、クラウドコンピューティング、IPv6の標準化、世界的な政府支援の進展をIIoTの推進要因として挙げているが、われわれはそれらを実現要因と考えている。本当の推進要因は、上記で説明したファクトリーオートメーションや制御という部分で、調査がIIoT市場の最大シェアを占めると指摘している製造業だ。
スマートファクトリーの恩恵を最大に受ける分野は、製品ライフサイクル管理(PLM)、エレクトロニクス、材料、鉱業、フィールド機器、マシンビジョンなどだろう。

図2:運用コストの削減、生産性の向上、新しい収益源の可能性は、IIoTが設計者とビジネスのイマジネーションを刺激する多くの理由のごく一部(出典:World Economic Forum)
MarketsandMarketの調査によると、ほとんどの既存製造業、エネルギー関連企業、農業生産者、医療関連企業にとって、IoTの採用を正当化する最初のビジネスケースは、先に述べた削減と改善に対応すると同時に、新たな収益源を創出する可能性を生み、労働者の生産性と労働条件を改善するものであることが必要だ。特に、労働者が危険な環境にさらされることを最小限に抑える、無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle:UAV)を使用したパイプラインの点検を挙げている。
医療分野では、現場での患者の重症度に基づいて治療の優先度を決定する「トリアージ」、在宅医療用のウェアラブル機器から病院内の監視や迅速対応の投薬システムまで、ネットワーク接続されたIoT対応の医療機器が活躍する場面が多く、IoT機器を最大限に生かせるだろう。IoTは患者ケアの質を向上すると同時に、病院資源の有効利用を可能にすると考えられる。
IoTの「いつ、どこで」を可能に
通信範囲が約100mを想定したIoTデバイスを設計する設計者の多くは、通信手段としてBluetooth IEEE 802.15.4(ZigBeeやThread、Wireless Hartなど)、家庭エネルギー管理システム(HEMS)での使用が想定されている無線通信プロトコル「Z-Wave」、Wi-Fiなど、それぞれに特色を持つ幅広い選択肢があり、どれを使用すべきか頭を悩ませていることだろう。
それぞれの規格で機能の拡充が進んでいるため、通信範囲、メッシュネットワーク機能、ネイティブIPサポート、データのスループット、消費電力といった観点からの取捨選択は非常に難しいが、興味深いものになる。
たとえば、Bluetoothの技術利用に対して認証する団体であるBluetooth SIG(Bluetooth Special Interest Group)は、2016年にBluetoothの公式通信範囲を現在の4倍、つまりClass 2であれば10mから40mに拡大する予定だ(同じBluetooth製品でも認定されているClassによって有効範囲が異なる。Class1の有効範囲はおよそ100m程度、Class2の有効範囲はおよそ10m程度、Class3の有効範囲はおよそ1m程度となる)。