Bluetooth SIGが定義しているのは10mの最小範囲のみだが、現実には、ベンダーの実装方法はさまざまで、ゲートウェイのレシーバの無線設計とアンテナ設計が適格であれば、現在のBLEでもその通信範囲は100mまで到達可能であり、クラシックBluetoothであれば1kmまで到達可能だろう。ちなみに、Bluetooth SIGはBLEにメッシュ機能を追加する予定である。
また、BLEのデータレートを倍増する計画もある。つまり、総データレートは1Mbit/sから2Mbit/sになり、遅延も削減されることになる。フェイルセーフ機能はIIoTのシステムやデバイスに不可欠であるため、産業向けの場合システムが異常に対してタイムリーに反応できるようにするには、遅延を10ミリ秒までにする必要がある。
しかし、焦点は測位機能とその他のコンテキストデータに絞られている。多くのBluetooth無線機には温度センサが搭載されているので、スタートポイントとして有効だ。Appleが2013年に導入した、BLEを活用して位置情報に基づくアラートを出す「iBeacon」はとても人気のアプリケーションだが、とてつもなく高精度というわけではなく、1m以下の範囲の解決に使用するには難しい(図3)。
図3では、プライマリプロファイルとして近接プロファイル(Proximity Profile:PXP)を使用し、受信信号強度インジケーター(Received Signal Strength Indicator:RSSI)を使用して通信範囲を決定する。しかし、干渉や吸収など予測のつかない環境の変化が生じた場合、RSSIがミスリードされて通信距離が増加する可能性があり、通信状況が悪化してしまうことがある。
図3:iBeaconはRF信号の相対的な強さに依存して位置を決定するのでToF方式ほど高精度ではない
これに伴い、センチメートルレベルまでの本当に高精度に測位するため、AoA/AoDに基づいた計算の研究が進んでおり、その効果が証明されている(図4)。
図4:「いつ」を追加するため、AoA、AoD、RFフィンガープリンティング、ToF解析での近距離無線技術でGNSS対応ゲートウェイを補強できる(u-blox作成)
たとえば、パケットをトランスミッターからレシーバへ送信するのにかかる時間を測定するWi-Fi ToFでは、30cm以下の測位精度が提供される。ここまで精度の高い測位情報が必要となる例を挙げるとすれば、医療分野での血液などの追跡に使用することを想定してみたい。これには、温度と高精度な位置データの組み合わせが重要になり、より詳細な測位情報の提供が必要となってくるだろう。
設計者は、高精度なGPS対応ゲートウェイの正確なタイムスタンプと、これらのデータを組み合わせることができる(図5)。また、それらのゲートウェイは高価な専用機器でなくても問題ない。スマートフォンにも、それらの情報を供給し、複数の無線または有線インターフェースのいずれかを使用してデータをクラウドに接続する機能がある。
図5:「いつ」を取得するため、GNSSベースのタイムスタンプを使用してナノ秒単位の精度を得られる。そのほかに、タイムプロトコルのPTP(Precision Time Protocol)やNTP(Network Time Protocol)、ToFといった方式もある(u-blox作成)
そのほかの測位技術には、既知のWi-Fiアクセスポイントまたはセルラー基地局からのRF経路をマッピングしてデバイスの位置を適切に測位する、フィンガープリンティングがある。
“車両インフラストラクチャ間(Vehicle to Infrastructure:V2I)”や“車車間通信(Vehicle to Vehicle:V2V)”などのアプリケーションでは、通信遅延を最小にすることが重要であるため、信号遅延を50ミリ秒以内に抑えるために、適切なプロトコルと10MHzチャネルで5.9GHz帯を使用するIEEE 802.11pに基づく無線への移行が進んでいる。