小売業で世界的に進む改革の方向性--オムニチャネルにフォーカスするSAP

末岡洋子 2016年08月26日 08時47分

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 ECに押され気味に見える既存の小売業界だが、実際には大きな改革が世界的に進もうとしている。キーワードは「オムニチャネル」だ。これまでバックエンドで小売業を支援してきたSAPはEC、マーケティングなどフロントエンドのHybrisを2013年に買収。今年は5大フォーカスの1つとしてHybrisをプッシュしていく。

 小売業のトレンドやSAPのソリューションについて、SAPでリテール担当グローバルバイスプレジデントを務めるRalf Kern氏に聞いた。

--既存小売業のオムニチャネル化が進んでいる。小売業のトレンドとそれに対するSAPの戦略は?

SAPでリテール担当グローバルバイスプレジデントを務めるRalf Kern氏
SAPでリテール担当グローバルバイスプレジデントを務めるRalf Kern氏

 欧米の小売業は「インサイドアウト」モデルをとってきたが、「アウトサイドイン」のアプローチが必要だ。欧州では百貨店が軒並み苦境にあるが、原因は社内の考えに基づいて店舗を構造化するインサイドアウトで構築してきたためだ。求められているのは、顧客一人一人をみて、何が欲しいのかを考えるアウトサイドインだ。

 ドバイにはデパートがたくさんあり、成功している。その理由は、顧客体験からスタートして作っているからだ。欧米の小売業とは考え方が全く異なり、顧客ファーストの顧客ジャーニーマップを構築している。これはアウトサイドインのアプローチといえる。

 われわれはアウトサイドインのアプローチを可能にすることをソリューション開発と買収戦略の基本にしている。小売業の苦戦が続いていることもあり、インメモリデータベース「HANA」で最初のインダストリーとしてソフトウェアを提供した。

 小売業向けHANAプラットフォーム戦略の重要な柱が「SAP Customer Activity Repository(CAR)」だ。HANAベースのアプリケーションで、顧客、売上、在庫などの情報をさまざまなアプリケーションから単一のプラットフォームに取り込み、予測分析を行うことができる。

 実店舗、ECなどのオンラインの両方からのトランザクションデータ、そしてオペレーションデータを利用でき、プロモーション管理、リテール・アロケーション管理などの最適化アプリケーションを構築している。これにより、オンラインと実店舗の両方のデータに基づいた包括的なプランニングができる。

 CARは最初から予測分析機能を入れている。これまで店舗の運営は直感に頼ってきたかもしれないが、オンライン、モバイルなどのチャネルも管理するとなると直感には限界がある。CARに予測分析を加えることで、リアルタイムでのシミュレーションなどが可能となる。

 既にスイスのCoopなど多数の事例があり、顧客数は150を数える。規模もさまざまで、オンプレミスで動かす顧客もあれば、HANA Enterprise Cloud上で動かしている顧客もある。

--この分野では2013年にHybrisを買収している。

 小売はSAPにとって重要な成長分野だが、ソーシャルデータ、クリックストリーム分析といったこれまでSAPが手がけていないデータとの接続部分が重要になってきた。

 これらの多くは非構造化データだ。Hybrisはマーケティングに投資しており、Hybris Marketingでは非構造化データを利用できる。Hybris Marketingの一機能であるHybris Profileでは、顧客の購買ジャーニーを把握できる。社内開発という方法もあったが、共同顧客も100社あるなど多数あることもあってHybrisを買収することにした。

 CARへの統合も進めており、Hybris Marketing、Hybris Commerceも同じプラットフォーム上に構築した。SAPの顧客は構造化データ、非構造化データを同じプラットフォーム上に持ち、CARあるいはHybris経由でデータにアクセスできる。そして、ストアで収集したデータを利用してセグメンテーションやパーソナライゼーションができる。オンラインと物理の両方の世界で利用できる。

 顧客に関するデータをすべて集めて、顧客の購買ジャーニーマップを構築できるようになると、小売業は大きく変わる。何をすべきか、社内・社外のどこでもっと協業の必要があるのかがわかるようになるからだ。業務アプリケーションと接続することで、さらにすばらしい効果が得られる。

 簡単に聞こえるが、既存の小売業にとって接続と連携は非常に複雑な作業が要求されるものだった。Hybrisを買収することで、SAP一社で提供できるようになった。

 さらには、BtoBのAriba、人事のSuccessFactors、サービスや一時的なスタッフを調達・管理できるFieldglassといったビジネスネットワーク構築のためのソリューションにも投資してきた。これらを活用して、市場の変化や顧客のニーズに柔軟に対応できる。

Under Armourの場合

 スポーツアパレルのUnder Armourは、HybrisとSAPのバックエンドを連携させて、ビジネスネットワークをリアルタイムで活用している。

 今後はIoTも入ってくる。開発プラットフォームであるHANA Cloud Platformで開発したCAR向けのパートナーや顧客の拡張機能でIoTをプラットフォームに組み込み、カメラやRFIDからのデータを取り込むことができる。これらを利用して、アウトサイドインのアプローチによる新しいビジネスプロセスの開発ができる。

 アウトサイドインの強化では、5月に発表したAppleとの提携もその狙いがある。iPadなどのAppleのデバイスでストア向けのソリューションを開発し、スタッフが店舗で顧客のニーズを探り、それに合わせたプロセスを構築できる。

 日本では小売業の状況が少し異なるが、共通の課題として新しいパラダイムに移行する必要がある。S/4HANAでデジタルコアを構築し、それをビジネスネットワークで囲むというアーキテクチャ、中心となるCARが重要である点は同じだ。

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