「量子コンピュータが人工知能を加速させる」――。そんな文言を聞いたら多くの読者は驚くに違いない。多くの読者は未来を期待せずにはいられないはずだ。しかし量子コンピュータという言葉に多少なりとも抵抗を感じるはずだ。
量子コンピュータは1990年代から現在まで多くの研究が積み上がり、今後の計算技術の新機軸となるのは間違いないだろうと期待されている技術だ。しかしながらその実現には多くの年月が必要とされるだろうと言われて、実際の利用やビジネスの世界での応用には程遠いものと敬遠されてきた側面は否めない。
量子アニーリング形式の量子コンピュータを開発しているD-wave
GoogleとNASA(米航空宇宙局)が2015年暮れ頃にD-Wave Systems社が販売する世界初の商用量子コンピュータに関する研究成果を報告した。
「既存のコンピュータより1億倍速い」というセンセーショナルなニュースは瞬く間に世界に広がった。そもそも量子コンピュータが販売されていたということをこの記事を読むまでに知らなかった読者もいるだろう。
実は量子コンピュータは買える。その量子コンピュータは、これまでに聞いてきた「因数分解が解ける」というようなものとは異なるものである。しかしその量子コンピュータは、ビジネスでの活用が最も近い、実用面でのメリットが非常に大きいものであることがわかってきた。
この量子コンピュータは、超伝導の微小リングを集積化したチップでできており、ありとあらゆる可能性を探索して「最適な解答」を瞬時に割り出すことができる。今となっては当たり前になっている地図上での最短経路を探し出すというものも「最適な解答」を求めるというタスクだ。世の中は最適化問題であふれている。
例えば金融。どの金融商品を買うかどうかの判断には利益とリスクの両者を考慮した上で「最適な解答」を要求される。そのような問題の解決に実際にこの量子コンピュータは利用されている。
この量子コンピュータの動作原理は「量子アニーリング」と呼ばれるもので、日本人の研究者が発案した計算手法であり、その方法に準じたコンピュータを実際にカナダのベンチャー企業であるD-Wave Systems社が製作したのだ。