イノベーションを実現するための6つの論点
イノベーションとは、言ってみれば伝統的金融機関がこれまで踏み込まなかった“モデル化・定量化が困難な不確実性との闘い”である。これに照準を定め、確実に成し遂げるためには、6つの側面から従来型の発想を転換することが求められる。
(図表3)イノベーションを実現するための6つの論点(出典:アクセンチュア)
ビジョン・アジェンダ設定
従来の金融機関の取り組みでは、目標到達点と経路、期待できる果実を明確に描いてからスタートする、という発想であった。一方、イノベーション戦略においては、ビジョンとそれを支えるアジェンダの具体化が重要となる。言い換えれば、不確実性の海原で自らの立ち居地を見失わないために、指針となる北極星と海図を用意し、都度直面する大波に対し、事前策を打ち出し続けることが求められる。
ニーズ・シーズ収集
従来ビジネスの単純延長でないイノベーションを試行するには、ニーズ・シーズを適切に把握し、アイデア着想の糧にすることだけでなく、案件実行の出発点において、より具体的なイメージを持つことが重要である。
ニーズ・シーズに関する情報は、座して待っていても向こうから親切にドアをたたいてくれることは期待できない。とは言っても、やみくもに情報を集め、ひとつひとつの整理に時間を要していては、スピードを損なうリスクがある。いかにして適切な量・質のニーズ・シーズを集められる体制を整備するかが、その成否を分けるだろう。
商品・サービス開発
早く、小さくスタートし、市場の反応を見極め、軌道修正しながら大きく育てることを愚直に実行するための手法が必要となる。そのためには「ビジネス」・「テクノロジー」・「クリエイティブ」が三位一体となって取り組むことだけでなく、アジャイル型の商品・サービス開発が求められる。
プログラム実行
変革や外部企業等との連携は、変数を無限に多くした方程式を解くようなものである。ここで問われるのは、従来型の進捗・期日中心の「プロジェクト管理力」ではなく、リソース配分や実行計画を適切に見直しながら、目標の実現にいかに近づけられるかの「マネジメント力」である。
投資・案件管理
不確実性の中で安定的に成果を上げ続けるには、ポートフォリオの中で物事を把握することが必要である。案件とシードのポートフォリオを適切に組成・管理できるかが重要なポイントとなる。
組織・人財・カルチャー
既存の枠組みから外れたことを率先して行うこと、失敗を許容することは、組織・人財の統制において最も難しい課題の1つである。しかしながら、イノベーション戦略の推進においては、これらをうまく設計し、非常識とならない範囲での逸脱を促進する組織文化を育むことが求められる。
これらをいち早く自らの組織内に具備し、変化し続けた金融機関のみが、勝ち残る世界が既にそこまで迫っている。従来は、横並びと言われてきた金融機関がおのおのの個性を磨き、特徴あるサービスを提供することで、顧客が金融機関に感じる価値が圧倒的に高まることを期待したい。
- 村上 隆文
- アクセンチュア株式会社 戦略コンサルティング本部エンタープライズアーキテクチャ&アプリケーション戦略 マネジング・ディレクター。
- 金融機関向けにIT・テクノロジー戦略を担当。10年以上に渡り、金融業界におけるIT戦略、ITトランスフォメーション、PMI等のプロジェクトに従事。テクノロジー戦略、イノベーション戦略、IT投資戦略、ビジネス・ITトランスフォメーション、大規模システム導入等に多くの知見を持つ。経済産業省「産業・金融IT融合に関する研究会」(FinTech研究会)メンバー。