前回は、FinTechが金融テクノロジのパラダイムシフトとして期待を寄せられている背景について考察した。デジタル化の進展による消費者のリテラシー向上とニーズの変化、その一方でIT投資が参入障壁となりにくくなった状況の中、従来金融機関が提供してこなかった領域や顧客セグメントに対し、新たな付加価値をつけた金融類似サービスを提供するプレーヤーが現れ、金融ビジネスにイノベーションを起こしつつある。
そして、イノベーションの起爆剤となるFinTech企業は、金融機関のビジネスおよび業務の側面で自由度と効率性の向上をもたらすサービスを提供するものもあれば、金融機関が行っているビジネス自体を代替する企業も存在している。それら金融ビジネスに与えるインパクトを「(1)アンバンドル」「(2)リバンドル」「(3)エンハンス」として体系的に整理・分類し、その全体像を述べた。
今回は、金融機関にとって直接的な脅威となりうる「(1)アンバンドル」と「(2)リバンドル」について述べたうえで、金融機関が取るべきアクションについて考察する。
アンバンドリングの意味--従来型戦略の否定
まず、アンバンドル化がもたらすインパクトから見ていこう。テクノロジを活用して金融既存ビジネスの代替手段が提供されることにより、伝統的な金融機関はどの程度の収益が減少するリスクにさらされるだろうか。アクセンチュアによる米国市場を対象とした試算では、顧客流出、競争激化によるマージン縮小などにより、収益の30%超が失われるリスクがあるとしている(図表1)。
次に、どのような事業分野にどの程度のリスクが潜んでいるのだろうか。伝統的な金融機関の収益を減少させるリスクで最も高く、約17%が失われると試算されているのが、預金に関する分野である。ここではSIMPLEやMovenといった実店舗を持たないモバイル専業銀行が、急増するモバイル利用のニーズをとらえるとともに、低コストのサービス(ほぼ全てが手数料無料)を提供することで、この分野を浸食し始めている。
また決済分野では、前述したPayPalや金融機関と提携して低コストの決済/送金サービスを提供するDWOLLA、さらにモバイル決済サービスとしてApple Payが昨今注目を集めている。
(図表1)アンバンドル化が銀行収益に与えるインパクト(出典:アクセンチュア)
アンバンドリングは、金融機関にとって無視できない規模のインパクトであるだけでなく、金融機関の戦略自体に変革を迫っている。すなわち従来の金融機関では、商品のコモディティ化が進む中、規模を追求することにより価格優位性を追求してきたが、逆にFinTech企業の身軽さからくる「スピード」と「価格競争力」に勝てないことがここに証明されている。
こうなると、「お金」という社会的に重要なアセットを保有する企業として課せられた使命として、体制・仕組み面での安全性・堅牢性を求められることが、結果として「スピード」と「価格競争力」を阻害する要因となってしまうのである。