農業 × IoTが導く世界

農業ITの実情とこれから(3) - (page 3)

山口典男(PSソリューションズ)

2016-12-20 07:30

「ITリテラシーが高い」

 私は農業分野でITリテラシーが高いとか低いという議論は意味がないと思っている。少なくともe-kakashiを使うのに特別なITリテラシーと呼ばれるものが必要とは思えない。最近どの高齢者も孫にLINEで絵文字スタンプ位は送れる。必要で便利なものであれば使う。それだけである。では何も必要ないかと言えばそうでもない。

 運転免許を取って初めて車に乗り込み、行先を決めた時、何があったら安心だろうか。運転が上手になって知らない土地にロングドライブに行くとき、プロになってお客さんを乗せて目的地に行くとき、渋滞や工事で道が混んでいた時うまく迂回できるか悩むとき、何があったら便利か?

 私たちは農業と農業生産者にとってそのような存在になりたいと思っている。

 そこで、これから農業を始める、農業を学ぶ人たちにe-kakashiのようなものがあるという事を知ってもらい、慣れてもらおうと考えた。

 貸農園などの先進的なビジネスモデルを成功させ、さらに就農するために充実したカリキュラムを持つアグリイノベーション大学校を経営する株式会社マイファームでは現在授業の中にe-kakashiの講義を設定する準備を始めている。同時に幾つかの農業大学校にe-kakashiを設置し、触ってもらいながら勉強してもらうという取組も2017年に向けて準備中である。

農業は環境負荷が高い

 昔工場からの廃液が環境汚染を起こし多くの被害が出た。工業は環境負荷を下げるべく投資を行って来た。一方農業はどうだろうか。農業は植物を育てるのだから環境には良いのではないか、と考える向きがあるが、実際は逆だ。

 農業は環境負荷が高い産業である。露地栽培で撒いた化学肥料の半分近くは作物に吸収されずに地中に流れ込んでしまう。そしてその肥料成分がどこに行ってしまったのか明確に把握する術はない。では有機栽培に切り替え、化学肥料は使わなければ良いのか?ある試算では地球上から化学肥料が無くなり有機農業だけになると、この地球ではせいぜい30億人しか食えないと言われている。

 ではすべて環境から隔離した施設園芸、植物工場で作ればよいのか、というとそう単純ではない。コスト面で見ても2016年11月段階でペイしないものが多い。

 ではどうするのか。少なくとも今できることは、無駄な肥料、農薬も使わず必要最小限で済ませる環境負荷の低い農業を行うことで、その中で私達ができるのは、精密農業がやりやすくなる道具を提供することである。つまり、おいしくて身体に良いだけではなく、地球にも優しい農業を実現していかなくてはならない。その面では必ずしも日本は世界をリードしていない。

 Made by Japanといわれる日本企業や日本人が、他国で農業で成功するという状況は既に始まっている。そのような流れの中で、e-kakashiが最も「使える」道具であるように、我々は日々精進していく。

山口典男
PSソリューションズ
2005年よりVodafone(現ソフトバンク株式会社)でホールセール事業責任者。同年、農業センサネットワーク「e-kakashi」を発案、事業、研究開発を行い、総務省ユビキタス特区委託事業(2009-2010年度)に選定。2008年に博士号(情報システム科学)取得。ソフトバンクグループ事業提案「第一回SBイノベンチャー」で一位通過(提案数約1200件)を果たす。

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