先日、写真をアニメ風に加工できるスマホ用アプリが「著作権侵害の疑いが強い」と指摘され、配信が停止された。なんのことはない。撮影された写真の「空」部分を自動認識して、超有名監督のアニメ作品に描かれている「空」を切り取って張り付けるだけのチートな代物だったのだ。このアプリは「人工ニューラルネットと人工知能を駆使」を売り文句にしていたが、「ニューラルネット(ワーク)」や「人工知能」が聞いてあきれる。
写真加工が「創作」の一部かどうかはさておき、テクノロジは人間の創作を多方面からアシストしてきた。マンガやアニメの制作工程のデジタル化、3DモデリングやCGの活用による表現幅の拡大は、その一例。では、アシストではなく、創作そのものをテクノロジが担うことは可能なのだろうか。
「ドラえもん」に登場する「まんが製造箱」【*1】は、マンガ本の見本を入れると「コンピューターが絵がらや作風を分せきして」(ドラえもんのセリフより)、その作家が描くであろうオリジナル作品を描いてくれる道具。のび太はおそれ多くも、「手塚治虫の250ページ読み切り作品」をしれっとオーダーしていた。
同じく「ドラえもん」の「アニメーカー」【*2】という道具は、アニメーション作品を1本まるまる作ってくれるスーパーツールだ。キャラクター起こし、シナリオ、絵コンテ、原動画、彩色、背景、撮影。果ては劇伴の作曲や電気的な合成音声によるアフレコまで。両者とも人間による作業は簡単な機械操作だけ。人間がクリエイティビティを発揮する必要はない。
3月、「まんが製造箱」や「アニメーカー」の現実化を期待させるニュースが報じられた。公募による小説大賞である「星新一賞」で、AI(人工知能)の書いた小説の何本かが、一次審査を通過したのだ。
そのなかで、公立はこだて未来大学教授の松原仁氏が率いる「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」が応募した2作品は、「登場人物の設定や話の筋、文章の『部品』に相当するものを人間が用意し、AIがそれをもとに小説を自動的に生成した」という。
このケースはテクノロジによる「完全創作」とはいいがたいが、松原氏らは「 星新一のショートショート全編を分析し、エッセイなどに書かれたアイデア発想法を参考にして、人工知能に面白いショートショートを創作させることを目指している」というから、今後の進化には期待できる。いずれノウハウが溜まれば、(やっていいことかは別として)三島由紀夫や太宰治の“新作”や、「ノルウェイの森」の“続編”が読めるかもしれない。
公立はこだて未来大学教授の松原仁氏が率いる「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」ウェブサイトから引用