「今や差別は科学の領域だ」――映画『ガタカ』より
NASA(アメリカ航空宇宙局)は2011年、科学的見地から判断した「現実的なSF映画」のベスト&ワーストを発表した。そのベスト1に選出されたのが『ガタカ』(監督:アンドリュー・ニコル、主演:イーサン・ホーク、1997年)である。
『ガタカ』の舞台は、遺伝子医療が発達した近未来。出生数秒後には血液の遺伝子解析によって推定寿命と死因が判明し、依存症や疾病に罹患する確率がはじき出されてしまう。そのため、人はできることなら「優生」の子どもを設けるべく、受精卵の段階で完璧な遺伝子操作を施し、各種疾患ほか薄毛や肥満、近眼といった「有害な要素」をすべて排除したうえで子を授かるのだ。その際、性別はもちろん、目や髪の色まで任意に選べてしまう。
映画『ガタカ』 amazonから引用
しかし主人公のヴィンセントは、両親のロマンチックなカーセックスによる自然妊娠の末に生まれた。両親はヴィンセントが生まれてすぐ、彼が将来罹患するであろう疾病の確率を病院から告げられる。「神経疾患60%、躁鬱病42%、注意力欠如障害89%、心臓疾患99%」。しかも推定寿命はたったの30.2歳! ヴィンセントは外見的な体格にも恵まれない「不適正者」として育つのだ。
青年になったヴィンセントは宇宙飛行士になる夢を抱くが、遺伝子操作を受けて生まれた「適正者」にしかその道はない。そこで彼は一計を案じ、事故で下半身不随になった元水泳選手のジェロームと契約を結ぶ。エリートの「適正者」であるジェロームの血液や尿を使い、ジェロームになりすまして宇宙事業を行う「ガタカ社」の入社試験をパスするのだ。
『ガタカ』の作中における「適正者」とは、いわゆる「デザイナーベビー(designer baby)」と呼ばれるものだ。名称の由来は、親が子どもを任意の外見・性質となるよう恣意的に「デザイン」することから。ちなみに、遺伝子操作によって生まれてくる人間の形質を「強化」することを、ジェネティック・エンハンスメント(genetic enhancement/遺伝子強化法)と呼ぶ。
デザイナーベビーが登場するフィクション作品は少なくない。ぱっと思いつくところでも、TVアニメ『機動戦士ガンダムSEED』(2002〜03放映)に登場する「コーディネイター」、ゲーム『メタルギア』シリーズの「恐るべき子供たち計画」で誕生した主人公スネークなどは、いずれもデザイナーベビーだ。
渋いところでは、1968年から続いている超長寿マンガ『ゴルゴ13(サーティーン)』の「バイオニックソルジャー」(コミックス104巻収録/1993年3月作品)の回にも、デザイナーベビーとおぼしきキャラクターが登場する。天才兵士の精子と天才短距離ランナーの卵子をかけあわせて生まれた最強のバイオニックソルジャー(生物工学的に生まれた兵士)、ライリーだ。彼は米国ペンタゴンの指示によって、世界中の政府が恐れる天才的狙撃手・ゴルゴ13を抹殺すべく対決に挑む。
このようなフィクションに登場するデザイナーベビーはあまりにSFじみているように思えるが、現実化はもはや秒読み段階かもしれない。