唾液を送るとたった99ドルで各種病気のリスクなど200項目以上の遺伝子解析をしてくれるサービスで話題になった米企業の23andMeは2013年9月、精子・卵子の遺伝情報を解析してデザイナーベビーの誕生に結びつく技術の特許を取得した。これはもう、完全に『ガタカ』フラグだ。
遺伝情報を担うDNAを、それこそ「切ったり貼ったり」するごとく思い通りに改変する技術、いわゆる「ゲノム編集」に関しては、まさに今、世界の大学や民間企業が特許争奪戦を繰り広げている(「ゲノム」とは、生物の細胞核の中のDNA(デオキシリボ核酸)に含まれる、すべての遺伝情報のこと)。
その中核にあるのが、2012年に開発された「クリスパー・キャス9」というゲノム編集技術だ。意図しない遺伝子改変のおそれがある放射線による遺伝子組み換えと違って、同技術はDNAの中の狙った遺伝子だけを正確に改変できる。先天性の遺伝性疾患ほか、がんや筋ジストロフィーといった難病を遺伝子レベルで根治したり、農作物の品種改良に革命的な発展をもたらす可能性を秘めているのだ。

成長が見込める遺伝子改変ビジネスの恩恵に預かろうと、医療・化学・食品分野の各国企業は、この分野に我先にと資金を投入しつつある。米市場調査会社のグランドビューは、2025年にゲノム編集市場規模が85億ドル(約9400億円)にもなると試算した。
ゲノム編集技術の飛躍的向上を後押ししたのは、紛れもなくITだ。たとえば、DNAには「塩基」と呼ばれる4種類の化合物が含まれており、その配列のうちのいくつかが遺伝子として機能するが、人間の塩基数は約31億個にものぼる。それほど膨大なデータを処理・解析できるだけの超ド級のCPUやストレージなくして、精度の高いゲノム編集はありえない。
ただ、この手の話題に必ずつきまとうデリケートな論点がある。倫理・人権問題だ。