2017年を迎えた。今年のトピックの1つは、企業が持つオンプレミスシステムをどう次のシステムへと移行させていくかだ。UNIXやWindows Serverなどで5~15年ほど前に構築したようなシステムに、ハードウェア面やライセンス面で耐用年数が訪れた時、そのまま更新する選択肢はあるが、それを現在に合った仕組みに載せ替えるといった需要も存在する。
この数年でのクラウドへの考え方の変化や、オープンソース活用のハードルが低くなったこと、ITとビジネスが以前にも増して不可分になっていることを背景に、コスト面や組織面の施策も兼ねて、新たなシステムへの刷新を考える企業も出てくる。
背景として言えるのは、いずれの方法も、処理性能やセキュリティ、可用性といった課題を克服しつつあることだ。2017年は、そのマイグレーション方法の多様性が花開く年になりそうだ。
NTTコミュニケーションズの取締役で、クラウドサービス部長を務める森林正彰氏
NTTコミュニケーションズ(NTT Com)は、OpenStackの商用版ソフトウェアを提供するMirantisとの協業を2016年10月19日に発表した。NTT Comの専有型ベアメタルサーバやデータセンターで運用されるサーバで、Mirantisのクラウド基盤向けソフトウェアにマネージドサービスを加えた「Mirantis Managed OpenStack」を利用できる環境を提供する。「サービスとしてのOpenStack」を展開するという。
日産自動車「羅針盤」の刷新
NTT Comの取締役で、クラウドサービス部長を務める森林正彰氏は「われわれはクラウドに必要なインフラ環境やネットワーク、通信設備を持つが、唯一持っていないのがソフトウェアだったから」とMirantisとの協業の狙いを語る。2016年の10月には、日産自動車が自動車購入検討者向けに提供する公式サイト「羅針盤」を、NTT Comの企業向けクラウドサービス「Enterprise Cloud」上にOpenStackベースで刷新し、運用を開始した。
羅針盤は、1994年にオンプレミスシステム上で運用を開始。最近では、システム基盤が老朽化し、拡張性や柔軟性に課題を抱えていた。システム基盤と接続するネットワークや派生する関連サイトは個別に管理運用されていたため、セキュリティレベルのばらつきや故障発生時の切り分け時間の長期化、新規システム導入にかかる時間やコスト増などが発生していた。
今回、OpenStackベースのクラウドへの移行により、ガバナンスの強化を含め、羅針盤が抱える課題を解消できるという。
クラウド移行の事例は2017年以降も増えていくと考えられ、その要望に海外市場を含めて応えていくために、NTT ComはMirantisとの協業を決めるに至った。
Mirantisの共同設立者で最高マーケティング責任者(CMO)のBoris Renski氏
一方、MirantisにもNTT Comと協業する利点はある。Mirantisの共同設立者で最高マーケティング責任者(CMO)のBoris Renski氏は「多数の企業とパートナーシップを組むのは困難」と説明しながら、NTT Comとの協業について「日本で最大規模であることや、サービス地域がグローバルであること」を挙げる。エンタープライズのシステムという意味で「他のプロバイダーが十分なノウハウを持たないのに対し、NTT Comはさまざまなフットプリントを持っていた」ことも要因になったとしている。
日産自動車のように、OpenStackベースのクラウド基盤と現行システムや他社のパブリッククラウドを連携させたハイブリッドクラウドシステムの構築するケースは、1つの有力なパターンになりそうだ。Mirantisの日本法人社長と務める磯逸夫氏は、まだ公表できないものの、ほかにも日本の有力企業による導入実績があるとしている。
ほかにも、さまざまな選択肢がある。2016年は、VMwareが2月にIBMと、9月にはAWSと協業を発表。サーバ仮想化技術をベースに実装が複雑になる傾向のあるVMwareベースの基幹システムに、あまり手を入れることなくパブリッククラウド上のベアメタル環境に載せ替えられるようになっていることで、基幹システムのクラウド化が手軽にできる可能性が拓けた。
AWSはパブリッククラウドの絶対的な存在として認知されているものの、大企業のオンプレミスシステムの受け入れ基盤であるとの見方はあまりされていない。MirantisのRenski氏も「VMwareがAWS上にホストされるというのはおもしろい動きだ」と話した。
あるVMwareの関係者は「顧客がクラウドサービスプロバイダーにシステムを移行させたとしても、基盤のソフトウェアがVMwareである限り、将来的にオンプレミスに戻すことも、他のクラウドサービスプロバイダーに移行することも容易である」とする。VMwareのビジネスとして都合は悪くない。
MicrosoftやOracleのほか、国内クラウドサービスプロバイダーも、2017年はオンプレミスシステムのクラウド化の動きに着目している。ユーザーにとっての利点はもちろん、サービスプロバイダーやソリューション企業にとっても、オンプレミスシステムは基本的に金額ベースが大きく、利益が見込めることも背景にある。
もちろん、方法はクラウド化だけではなく、既存のシステムを新たなハードウェアで刷新するような選択肢もある。効率化、管理一元化、処理の高速化を狙い、サーバやストレージが一体となる「ハイパーコンバージドシステム」の導入も視野に入る。同様に、1台のメインフレームに統合してしまう方法も考えられる。
ポストオンプレミスという土俵の上で、2017年は競争が激化する年になると考えられる。