藤本恭史「もっと気楽にFinTech」

海外では生活インフラ化しつつある「P2P送金」--その可能性とは - (page 3)

藤本恭史

2017-01-06 07:00

若者からの絶大な支持を得ているVenmo

 次に紹介したいのは、現在PayPalが米国で提供している「Venmo」です(2013年にBraintreeと共にPayPalが買収したサービスです)。VenmoができることはまさしくP2Pでの支払いや送金なのですが、特筆すべきは、米国において若者に絶大な人気があるサービスである、ということでしょう。人気の理由は、個人間送金が基本的に無料で、お金の受け渡しに関して銀行経由や小切手を使うよりも圧倒的に安く簡単であるためです。割り勘や友人間の支払いにも気軽に使えるサービスとして広まりました。

 ところで、本家のPayPalも米国ではP2P Paymentのサービスを提供しています。違いは、Venmoの提供しているソーシャル機能です。Venmoではお金のやり取りを起点にしたソーシャルフィードがタイムラインに表示されるのです。人のお金のやり取りを見て若者は何が面白いの?と思われるかもしれません。おじさん世代に所属する私も最初いまいちピンと来ませんでした。

 しかし実際にタイムラインに表示されるソーシャルフィードを見てみると、そこに流れてくる情報は「誰と誰がどんなお金のやり取りをしたのか?」というアクティビティです。実際の金額は表示されず、お金を使った内容などがアイコンで表示されたりします。つまり「AとBがどこかのレストランで割り勘した」や、「AがBにビール代を支払った」などのです。よく考えてみれば、FacebookやTwitterのタイムラインも誰々が一緒に飲み会をやっている、誰と食事した、誰と一緒にコンサートに行った、というものが多いと思います。それをお金のやり取りベースでソーシャルタイムラインに反映することで、若者にFacebookやTwitterとは違った新しいユーザー情報共有の方法を提供していることがうけているのだと思われます。

 Venmoは前述の通り、クレジットカードを利用した支払い以外は基本無料で使えるので、それが大人気の理由なのですが、ビジネス的にはそれゆえにマネタイズが難しい。そこで、今さまざまなパートナーと組んで、Venmoの利便性や簡単な支払い方法が生かせるビジネスへと拡張しています。

 その1つのサービスが「GAMETIME」です。GAMETIMEはスポーツイベントなどのチケットをディスカウントで購入できるアプリですが、その支払いにVenmoが利用可能です。「別にその支払いはVenmoでなくてもいいんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、しかしそういったスポーツイベントに行く際のシチュエーションを想像してみてください。

 スポーツバーに多くのファンが集まるように、イベント自体も応援や観戦は仲間と共に行った方が楽しい。もしくは誘われたら行くけど1人じゃ行かない、そんなライトなファンも多いと思います。つまり複数チケットを同時に買う、そして支払い者も複数存在する、そんな時にこのGAMETIMEではVenmo支払いでお金を分けて共同購入することができるのです。そして当然チケット購入のユーザー体験はソーシャルフィードすることができ、「友人AとBが野球観戦に行くみたい、僕らも行こう!」なんて友達のネットワークで盛り上がることになるのです。


 次にご紹介したいのが「MUNCHERY」です。MUNCHERYはいわゆるフードデリバリサービスで、できたて料理のケータリングや料理の素材が詰め込まれたクッキングキットを家まで届けてくれます。米国ではホームパーティが盛んですから、こういったフードデリバリは需要が多いと思われますし、現金をあまり持ち歩かない米国人が家の中でかかった費用を現金で割り勘するというのはあまり想像ができせん。そんな時、Venmoで支払いVenmoで割り勘する、というのは非常にニーズにマッチしたサービスだと思います。そしてここでもソーシャルフィードで、「友人AとBがパーティやってるぞ、僕らも行こう!」と盛り上がるわけです(おそらく)。

 こういったニーズは日本でも増えてきたと思います。私の周りでも、独身の人はもちろん、子供の幼稚園のパパママコミュニティ、小学校のコミュニティなどで、家に材料を持ち寄ってホームパーティしたりバーベキューパーティしたりといったネットワーキングの機会が広がってきている印象があります。

 そんな時、余計な貸し借りを避けるためにもその場でも割り勘は必須であり、しかも誰かが大元の支払いを立替えることなく、その場で平等に割り勘できる支払い方法があれば、とても便利だと思いませんか?


 そのほかにも、サンフランシスコで相乗りサービスやバスサービスを提供するライドシェアリングサービスの「Chariot」、家具や大型の荷物を搬送手配するシェアリングサービスの「Dolly」など、サービス利用シーンでVenmoのような支払い方法がフィットするビジネスとの提携を進めています。

 日本においても、これから新年会や卒業パーティーなど、人と人とのコミュニケィ活動やネットワーキングが活性化する時期だと思います。そういう人とのつながり、関わりの中から、日常的な需要としてP2P Paymentがもっと広がって大きなムーブメントになってくれれば、そしていつか日本でも気軽に使ってもらえるサービスになり、その利便性を手のひらで感じてくれるようになれれば、と思います。

 われわれの日常にはFinTechでもっと便利になることがいっぱい潜んでいます。今年はもっとそう行った利便性が加速する年になればいいという願いを込めつつ、皆様、よい一年をお過ごしください!

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