資金調達は人材確保のため
クラウド環境で提供するOmiseの決済システムは、安定稼働やセキュリティなどを充実させている。安定稼働が採用の大きなポイントになるので、99.99%の稼働率を保証する。「実積は99.999%だ」(日本法人の宇野雅晴氏)。セキュリティ面では、「不正」「不正らしい」をスコアリングし、機械学習による不正検知の精度向上を図っている。クレジットカード番号を乱英数字に置き換えるトークン決済もいち早く採り入れたという。
東南アジア各国の銀行やクレジットカードなどのネットワーク接続するために必要なライセンスの取得も着々と進めている。課題は、取得に時間がかかること。例えば、インドネシアとシンガポールで1年をそれぞれ費やしたという。そこで、「グーグルのGmailのように、各国で共通的に使えるもの」(長谷川CEO)にし、可能な限り短くする。
例えば、決済システムの機能を細分化し、「A国はこの部分だけ、B国はこの部分だけ」といった具合に国ごとに可能な機能から提供する。バックエンドの決済システムとして導入しやすくするスマートフォン用開発キットも用意する。
その一方で、人材確保に力を注ぐ。社員は2015年10月の約30人から2016年12月に14カ国86人に増えた。その4割を占める人工知能(AI)やデータ分析、インフラ、モバイルAP、Web-APなどのエンジニアは、「優秀な人材しか採用しない。例えば1000馬力必要なら、10馬力の人を100人雇うのではなく、500馬力の人を2人採用する」(長谷川CEO)。
各国の決済事情やマーケティングに精通する人材も欠かせない。タイやインドネシア、米国、日本のベンチャーキャピタルなどから約2500万ドルの資金を調達したのは、そうした人材確保のためでもある。
長谷川CEOは、「日本の新興企業とアジアをつなぐブリッジの役割を担いたい」と、アジアで事業を興す日本人経営者を支援する考えを語る。同氏は、そんな日本企業の新規産業創出を支援するジャパン・タイ・イノベーション・サポート・ネットワーク(JTIS)の代表理事を務めている。国内需要で十分な売り上げ、利益を確保するのが難しくなっていく中で、経済圏を日本からアジアへと広げるOmiseの長谷川氏のような日本人経営者への期待がどんどん高まっているようだ。

- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。