定点観測などの市場開拓
トライポットワークスは、どんな市場を開拓しようとしているのだろう。「建設現場は、面積が広く、高さがある」(佐々木社長)とし、ドローンによる定点観測の試験サービスを開始した。建設や工事の現場を毎月、毎日同じ高さから撮影し、施工プロセスを見える化する。固定カメラの撮影より、高さや距離がある。ドローンの軌道プログラムを開発し、顧客の担当者がドローンを操縦できるよう教育もする。
定期点検にも生かせる。点検するための足場を作る必要がなくなければ、その費用と時間を大幅に削減する。ドローンが点検するので、作業も安全になる。トンネルの保守点検に使う企業もある。コンクリートの劣化を赤外線センサーや壁を叩いた音から発見したりする。現場の人手不足の解消にもなる。トンネルや道路、橋など社会インフラの保守・維持管理は増える傾向にある。その市場は大きいだけに、人手不足が事故・災害につながる可能性もある。需要はある。
問題は収益にどう結びつけるかだ。佐々木社長は「今やっておかなければ、変革のスピードに追いつけなくなり、市場をリードできなくなる」と話す。だが、多くのIT企業はドローンの事業化を静観する。「ラジコンの延長と思っている人がいるが、業務システムのデバイスなのだ」(同)。確かに「こうです」という使い方を提案できないし、メリットも明確に説明できないかもしれない。「ああでもない、こうでもない」と、顧客といろんな専門家が集まり、議論しながら作り上げる段階なのかもしれない。
それでも、「自ら開拓すれば、自分に大きな成果をもたらす」と信じる佐々木社長は、新しい活用も積極的に請け負う。その1つは、宮城県女川沖の海藻生態調査だ。ある大学からの委託事業で、ドローンを使って、1秒に1回の割合で海上から写真をとり、合成するもの。
動画とは異なり、撮影した場所の緯度経度などからも、海藻の成長が分かるという。より精度を高めるためにはGPSを補正する必要もある。そんな経験も積める。「これができる企業は、日本に5社くらいだろう。ドローンの先進企業になれば、多くの情報が集める」と、佐々木社長のドローンへの期待が膨らむ。
- 田中 克己
- IT産業ジャーナリスト
- 日経BP社で日経コンピュータ副編集長、日経ウォッチャーIBM版編集長、日経システムプロバイダ編集長などを歴任し、2010年1月からフリーのITジャーナリストに。2004年度から2009年度まで専修大学兼任講師(情報産業)。12年10月からITビジネス研究会代表幹事も務める。35年にわたりIT産業の動向をウォッチし、主な著書に「IT産業崩壊の危機」「IT産業再生の針路」(日経BP社)、「ニッポンのIT企業」(ITmedia、電子書籍)、「2020年 ITがひろげる未来の可能性」(日経BPコンサルティング、監修)がある。