5月12日に欧州で発覚したマルウェア「Wannacry」の大規模感染から1週間あまりが経過した。これまでの間に、世界中のサイバーセキュリティ機関やベンダーなどによる調査や分析からさまざまな事実が判明したが、それでもいくつかの謎が残されている。
疑問1. Wannacryはランサムウェアか? ワームか?
Wannacryの素性で最初に広く認知されたのは、「ランサムウェア」としての顔だった。感染したWindows端末上のファイルを暗号化し、ビットコインによる身代金の支払いを要求する。
日本語による身代金要求メッセージ
一方で、短時間のうちに大規模感染を引き起す「ワーム」としての側面も浮上した。セキュリティ各社の解析から、Wannacryにはランサムウェアとワームの大きく2つの顔があり、ワームとしての機能には、4月中旬にハッカー集団「Shadow Brokers」が暴露した米国家安全保障局(NSA)の攻撃ツールや脆弱性情報が流用されていることも分かった。
身代金要求画面を被害者に突き付けるWannacryの手口は、ここ数年、世界中で氾濫する典型的なランサムウェアの特徴であり、その意味では多くの人が、すぐにWannacryをランサムウェアだと認識した。一方でワームとしての活動は密かに実行され、その顔が知られるまでには、専門家らによる解析を待たなければならなかった。
Wannacryが持つ2つの顔は、いったいどちらが正しいのか――これについては専門家の間でも見方が割れている。
ランサムウェアとしての顔を注視するベンダーある解析担当者は、「Wannacryの問題を必要以上に深刻にとらえるべきではない」と話す。「パッチをあてる」「最新のセキュリティソフトを利用する」「データを適切にバックアップする」といった基本的な対策をしていれば、今回の出来事が、ランサムウェアとしては特別な脅威にあたらないとみる。
一方でワームとしての顔を注視する専門家は、マルウェア攻撃が新たな段階に入ったと危機感を募らす。攻撃者は、Shadow Brokersが暴露した手法をいち早く取り入れてマルウェアを強化し、世界中に脅威を拡散させた。既に同様の手法で攻撃する別のマルウェアも出現し、Shadow Brokersのような存在がこうした脅威の元凶になり、セキュリティを提供する側にとっては、非常にやっかいな事態に陥ったとする意見が聞かれる。